そして動き出す魔術機械<ソーサリィ・マシン>
@wannawritevessel
第1話 学校へ行きたい
「やっぱ無理だよ、おじさん、帰ろうよ」
「まぁまぁ、聞いとけって」
不安げに引き留める、銀髪の混じった黒髪の青年。それを軽くなだめて続けるうさんくさい男。
「ですから、是非こいつをこの魔法学園で学ばせてやって欲しいんですよ。彼はここ数か月で魔道具の開発において、町一番の功績を挙げたんです!しかも専門的な知識なしで!ぜひここで魔法陣なんかの研究をさせてやりたいと思ってましてねェ」
ここは国の将来有望な生徒たちが集い、魔法を学び研鑽する学び舎の校長室。
「しかしねぇ、君。君たち、半年前にも来たよね。その時の身体検査や能力試験ではっきりしたじゃないか。その子は魔法が使えない。魔力を取り入れ使うことができない身体だ。前にも言ったが、そんな子が魔法を学ぶ学校に入れてもしょうがない。それと……」
その校長室からは、青い青い空が見えていた。屋根が剥げ、部屋は半壊していたからだ。
「この学校は先日の不良生徒の非行により、学舎のほとんどが倒壊してしまった。仮にその子がどれだけ魔法の天才だったとしても、そもそも今この学校は生徒を受け入れるどころじゃないんだ。君。魔道具が作れるんだって。良いじゃないか。ぜひその道を究めていってくれ」
「あっ、ハ……」
「自分でね」
「……はい」
青年は軽く頭を下げて返事した。
校長がふゥーとため息をつき、帰宅をうながす。そのまま青年が帰ろうとしたとき、男は切り出した。
「不良生徒の非行?おかしいですね、俺ァ、魔物……それも、竜の襲撃だって聞いたんですが」
校長のだるそうだった表情が、目に見えて蒼白になった。
「……!?君、なにを言って」
男は大げさな身振り手振りで、楽しそうに続ける。
「いやァー、なっさけないですねェー、かの魔法の国の最高教育機関が魔物の襲撃で台無しだなんて!一応魔物を寄せ付けない、攻撃を防ぐ魔法とか使ってたんでしょ?なのにぜーんぶブッ潰されちゃって!!」
「君、どうしてそれを……国と連携して隠蔽していた内容だ……何者だ、何が望みだ」
「んー、ようはその竜、倒しちゃえばいいんでしょう?」
男は、してやったり顔ですくんでいる青年の肩を、がっしりと掴んでそう言った。
「コ・イ・ツにやらせてみません?できたら入れてやってくださいよ、この学校に」
「ええ!」と、校長と青年が驚嘆の声をハモらせた。
・・・・・・
「ったくセンセー、なんで俺たちだけこんなとこまで来てお守りなんかしなくちゃなんねーんだよ」
「静かにしなさい!観察対象を刺激したらどうするの!?」
不平を言う男子生徒、それを厳しく注意する女子生徒。それらまとめて、隣の女性教師が優しくなだめた。
「あなたも。今日は、先日学園を襲った竜の討伐を監督するのが目的なの。なんでも、私たちの学校に入学希望の子が……」
「ハハハ、傑作。あんなボロカスにされた学校に入りたいだって。しかも噂がホントなら、そいつ、魔力ないんでしょ。あの竜、こないだ学校のエリート教師陣何人かが行って、瞬殺されたんだぜ?やー、無理無理。そういや、中にはそいつの兄貴も……おっと」
男子生徒はべらべらと得意げにしゃべるが、ある話題になると女子生徒にきっと睨みつけられ、素知らぬふりでそっぽをむいた。
「無駄話はその辺にして。君には、土の魔法でドラゴンの気を引く囮を作ってもらう予定です」
「はぁ~い。んだよ、人にこんなことやらせやがって。ま、せいぜい無様にやられるのを見させてもらうかな」
なんでこんなことに。
馬6頭でやっと牽引される、民家ほどの大きさを誇る巨大な木箱。その中で、これから試される青年は座っていた。ある日目覚めた彼には、記憶がなかった。
たまたま拾ってくれたおじさんに面倒を見てもらい、興味を示した魔道具や人形からあるモノを開発し、なぜか今、これから、あの魔法のエリート学校を壊滅させたドラゴンを倒しにいく羽目になっている。危ない。どう考えてもこれは損な話だ。すごい人たちが必至こいて成果を出せなかったのに、僕なんかが何かできるわけがない。きっと苦労して作ったコレも、あっけなく破壊されて、僕は……死ぬ。でも。
「やるだけやってみようぜ?気になるだろ。お前の作ったアレが、最強のドラゴンに通用するかを、さ!」
どうして僕はおじさんの言葉に、うん、と答えたんだろう。
「あれ、合図が……遅いな」
僕が作った魔道具の兵器が入った巨大な木箱。馬によって目標の竜の前まで牽引して、遠隔で起動する合図が来る予定だった。予定の時間を過ぎても合図が来ない。馬車の動きも止まっている気がする。どうしよう。やっぱ帰ろうかな。
その頃外では。
谷間で身を休めていた、人よりはるかに大きなオレンジがかった白い竜が、ぴんと何かに気づいたように視線を動かす。厳かな雰囲気の木箱。自分を不快にさせる何かが入っている。竜は口をゆっくりと開き、体内と大気中から魔力を集める。
「うそ、あの距離で気づかれた!?」
監督役の女教師は焦りを見せる。
「いくら秘密兵器だからって、あの竜の放つ光線をくらっては台無しになってしまう!魔法を防ぐ結界を貫通した、未知の仕組みの光線……!彼に知らせないと……!」
うさんくさい男は馬車で青年と兵器が入った木箱を運んでいる最中、竜がこちらを狙っていることにきづいた。
「いっけね。大事な馬を失うわけにはいかねぇしなァ」
馬の牽引用の装備を解除した。
「まぁ、コイツならダイジョブだろ。退散退散~」
彼は6頭いる内の1頭に乗って、大きな木箱をおきざりにしていく。青年に合図をする役目も、危険を知らせる役目も放棄して。
「あの男!あの子を置いていったの!?」
「オイオイ助け間に合わねーぞ、どうすんだ……こりゃ詰みだな」
監督補佐の女子生徒と男子生徒が喚く。
いよいよ竜の口から光線が放たれる。強い光が辺りを照らし出し、轟音とともに高密度の魔力の波動が空を切り裂く。
自分が今まさに必殺の光線に撃たれようとしていたことにすら気づいていない、大きな木箱の中の青年は考えた。
「やっぱ迷惑だしな。僕みたいな魔力も使えない人が、魔法学びたいからってあの学校いくのは」
彼は自分が座っていた操縦席にもたれた。
「でもやっぱ、こいつがどれだけやれるか、気になるな……申し訳ないけど、畏れ多いけど……やっちゃえ!」
カチリ、座席の足の間にある動力源を入れる。投影用ドーム型スクリーンの幕を背もたれから掴み、スルスルスルと頭上からコクピットを覆うように引き出して広げる。左右の手で操縦桿を握り、彼はこう言った。
「魔法陣複合型制御機構、
つんざくような轟音。光線が木箱に直撃し、激しい爆発とともに木片が四散する。
しかし、ここまでまっすぐ直線で飛んできた光線が、木箱の内部に入ると四方八方に分かれて走っていた。まるでそこに川の流れを別つ岩でもあるかのように。
光線を受けながらも、その巨影はゆっくりと立ち上がる。
「なんだアレ……まさか、竜の光線を弾いてるってのか?あり得ねぇ!防御魔法を貫通する性質を持っているんだぞ!」
竜が光線を吐き終え、ゆっくりと自分の自慢の技を受けてなお倒れない、得体のしれないものを注視している。
「あれは……人の形?でも生き物じゃない。冷たい。ゴーレム?魔物でもない。感じる、原始的だけど沢山の、簡単な魔法のつなぎ合わせ」
人というものをマッシブにデフォルメした前衛的なシルエット。神秘的な青黒いボディカラー。
「あれが、あの子が持ってきた秘密兵器……?馬鹿げてる。素人でもわかるような簡単な魔法を何十、何百と組み合わせてあの巨大な岩の巨人を操ってる。馬車に引かせればいいような重たい荷物を、人が直接触れずにタコ糸だけで引っ張ろうとしているようなモノだわ!」
日の目を見たその双眸に、水が流れ込むように空色の輝きが灯る。
生憎、この世界に「巨大人型ロボット」という言葉は存在しない。
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