第27話 駆け抜けて

 いよいよ最後の種目、竹宮くんの出場するチーム対抗リレーが始まった。自分が出場するわけではないのに緊張してくる。

 3年生で中学最後だからというのもあるけれど、竹宮くんのことが……気になってしまう。


「緑チームいけー!」

 4色あるチームのうち、今のところ緑チームは全体で2位。だけどこの最後のリレーで逆転のチャンスは十分にある。


 竹宮くんは3年生のレース、アンカーだ。

 3年生で選抜されたメンバーというだけで、他の学年よりも迫力も見応えもあるのに、さらにその中でのアンカーって……。もうこれは見逃せないよね。


「ああー優勝したいなぁー! 竹宮くん頑張ってー!」

 すみれちゃんが祈るポーズをして竹宮くんを見つめている。私も隣でお願いしますと祈りながら見守る。


 1年生、2年生のレースで緑チームは2位。これで3年生のレースで1位を取れたら優勝の可能性も……?


 うわぁ、また緊張してきた。

 竹宮くんは他の男子と普通に喋っているけど、大丈夫かな。



「では3年生のレースを始めます、位置について……よーい」



 笛の音とともに1番手が走ってゆく。最初からめちゃくちゃ速いのでびっくりしちゃうよ。

「緑いけー!」

「赤だぁー!」

「青ファイトー!」

「黄色がんばれー!」


 どのチームも似たような順位なのでまだわからない。

 とにかく応援あるのみだ。


 そして後半に入り、緑チームは2位で走っている。1位は赤。全体で暫定トップの赤チームがこのままいけば優勝してしまう。そんな赤チームの盛り上がりは最高潮である。


「ああー赤、強いって」

「まだ竹宮くんがいるからさ」

「どうかなぁ」


 いよいよアンカーだ。赤と緑の差は縮まってきている。竹宮くんにバトンが渡り、一気に駆け抜けていく。


 すみれちゃんが思い切り叫んでいた。

「竹宮くん、お願い! 頑張ってー!」


 私もみんなも「竹宮くーん!」と呼んでいる。

 男子たちも「晴翔はるとぉー!」と叫ぶ。


 

 最後のコーナーを曲がった後だった。

 竹宮くんは鮮やかに赤チームの人を抜いてそのままゴールテープを切った。

 2位とは本当に僅差だった。


 

「え? 見た? 緑1位?」

「最後抜いてたよね?」

「やった……やったー!」


 

 みんながきゃーきゃーと言いながら喜んでいる。

 私たちの緑チーム、竹宮くんの活躍でリレーは1位になった。


 最後の最後で追い抜くなんてすごすぎるよ。

 やっぱり竹宮くんって強いな。

 胸が熱くて泣きそうになる。


 

晴翔はるとのタオル? これだよな」

「ありがとう! ねぇすみれちゃん……ほら」


 気づいたらクラスの子達がすみれちゃんに竹宮くんのタオルを渡していた。

「え……? 何? あたしが……?」とすみれちゃんは驚いていたが、女子達に促され、そのタオルを持って竹宮くんの方へ向かって行った。


 

 そっか……。

 クラスの子達から見ればそうなんだ。

 すみれちゃんはいつも竹宮くんに積極的に話しかけていて、今回、アンカーの彼に最初に声援を送ったのも彼女だった。


 それにクラスの中では……すみれちゃんはよく竹宮くんの隣にいたような気がする。

 

 普段から「竹宮くん♪」と呼んでいて、竹宮くんのかっこよさと釣り合うぐらいの可愛いさのある、すみれちゃん。

 

 可愛いだけじゃなくて、明るくてみんなに元気をくれるすみれちゃんなら……女子達も納得しているに違いない。



 遠くの方ですみれちゃんが竹宮くんにタオルを渡しているのが見える。すみれちゃんが何か喋っていて、竹宮くんも嬉しそう。

 

 声は聞こえないけど、まるで2人だけの世界が出来上がっているみたい。だって中学生最後のリレーでアンカーで追い抜いて優勝したんだもの。それってドラマチックだよね。


 私も竹宮くんに……何か言えたらいいのに。

 クラスのこの雰囲気が、絶対にそうはさせてくれないような気がして別の涙が溢れそうだった。


 竹宮くんとすみれちゃんが戻ってきて、みんなは特に気にしてないような素ぶりを見せている。それが余計にクラスに認められたって感じがして私は何とも言えなかった。


 

 そして閉会式と得点発表。

 3年生のリレーのおかげで緑チームが奇跡の逆転優勝となった。


「イェーイ!」

「やったー!」

 盛り上がる私たち。優勝できて本当に嬉しい。

 だけど……。


 私はそんなつもりなんてなかったのに、涙が頬を伝っているのがわかった。どうして泣いてるんだろう。悔しいの? 悲しいの? よくわからない。


「奈々美、大丈夫? ああ感動しちゃうよね……」

 すみれちゃんが私のところに来て背中に手をやる。

 

「ごめん……私ったら……」

「いいんだよ、あたしも泣きそう。まさか竹宮くんが本当にやってくれるなんて」


 すみれちゃんから“竹宮くん”という名前を聞くと、涙が止まらなくなる。どうしちゃったんだろう。優勝できて良かったはずなのに……。



 ※※※



 帰り道、女子で集まっているとすみれちゃんが話し出した。

「あ……さっきはありがとう。竹宮くんにタオル渡せたよ」

 女子達が「それで? それで?」と言っている。


 

「決めた。ちゃんと――告白する」



 すみれちゃんが……告白?

 私は驚いて彼女を見てから、他の女子達も見て、キョロキョロしているみたいになった。


「みんな竹宮くんのこと好きだと思うから……あたしもそのままでいようと思ったんだけど……やっぱり今日のリレーを見たら好きだなって気づいちゃった」


 そうだよね、すみれちゃん。あの竹宮くんは最高にかっこよかった。


「やっぱりそう来なくっちゃー! 絶対竹宮くんもすみれちゃんに気があるって。よく喋ってるし」

 女子達がみんなワクワクしたような目ですみれちゃんを見つめている。


「奈々美……あたし、頑張ってみるよ」

「すみれちゃん……」

 

 すみれちゃんの目はまっすぐだった。まるで先のことをちゃんと見据えてるようで、私は何も言えなかった。

 

 “頑張って”って言えたらいいのに、口の中で言葉が渦巻いて、どれも違う気がした。


 もう、ただ見守る役になるのかな、私は……。


 

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