第26話 そして体育祭が始まる

「お疲れ様、奈々美。合唱も展示も良かったわ」

 自宅に帰るとお母さんが声をかけてくれた。


「仕事、抜け出して大丈夫だったの?」

「大丈夫大丈夫! ちょっと残業するけど」

「あまり無理しないでよ? お母さん朝起きれないと大変だから」

「はいはーい」


 お母さんは仕事の関係で美術部の展示に行ってから、3年生の合唱を見て帰ってきていた。


「あの花火の絵、フェスタの花火?」

「あ……うん。綺麗だったから」

「いいわねぇ、奈々美は想像力が豊かだわ。ケーキ屋さんになって可愛いケーキ作るって言ってたもんね」


 ケーキ屋さんか……。

 今は将来、何になりたいかって聞かれたら……。

 うーん。やっぱり受験のことしか考えられないや。



 ※※※



 文化祭が終わったら次は体育祭がある。どの種目に出るのかみんなで話し合って決まっていく。

 私は足が遅いのでリレーには出ずに他の種目を選ぶ。


晴翔はると、リレー出るよな?」と言われながら竹宮くんは黒板のリレーのところに名前を書かれている。


 竹宮くんのリレー。1年生の時から話題になっていたから「ああ、足が速くてかっこいい人なんだな」って思ってた。けれど今年は……絶対じーっと見てしまいそう。


 そして一位を目指して頑張ってほしいな……。

 いっぱい応援しよう。



 ※※※



 塾ではすでに入試の過去問を解いている。どうしよう。だんだん不安になってきちゃった。家でも復習を中心に苦手なところに取り組む。


「奈々美? 最近遅くない? 疲れてるなら早く寝た方がいいわよ」

「うん……あとちょっとだけ」


 

 そして――ピロンとスマホの音が鳴る。

 竹宮くんからだった。


 

『秋の全国模試、どこで受ける?』


 

 そうだ、模試もあった。

 春は近所の高校で受けたので、秋も同じところで申し込んでいる。そこの高校名を送信すると、『僕もその高校。頑張ろう』と返ってきた。


 

 竹宮くんと一緒に頑張っている感じがする……。



 ほっとするような温かい気持ちになって、少しドキドキもしてくる。同じ高校を目指す仲間みたいな……? それとも……。


 いけないいけない。もうちょっと課題進めて早く寝なくちゃ。



 ※※※



 そして10月。体育祭が開催された。

 よく晴れた青空。

 みんなの気合いも十分だ。


 3年生はどのクラスも張り切っていて「絶対勝つ!」と本気度が高い。

 うちのクラスは緑グループ。

 その緑グループに竹宮くんがいると分かった後輩の女の子の中には「うちのクラスも緑! 竹宮先輩と一緒ー!」と言っている子もいる。


 だって本当にリレー速いもんね……。

 

 そして私が今回出場するのは、綱引きや玉入れ、そして「借り人競争」だ。お題に書かれた人を連れてくるという、見ていて面白い種目である。

 じゃんけんで負けて出ることになったんだけどね。


「奈々美、借り人競争ってどんな人を連れてくるんだろ」

 同じくすみれちゃんも出場するので、2人揃って緊張している。


「うーん……“歴史に詳しい人”とか」

「それ奈々美でしょ? すぐ連れていくから」

「えー? アハハ」

「あと松永とか」

「そっか、先生でもいいのかな」


 借り人競争は今年初めて開催されるので、誰もイメージが湧かない。簡単なお題だったらいいな。


 そして綱引きや玉入れ、二人三脚などの競技が行われ、途中に応援合戦も入り、大盛り上がりだった。

 

 途中でカメラマンさんが席まで来てくれると、女子達でそっちに向かって行ってピースサインをする。こういう時の撮影では思いっきり笑ってるんだろうな。


「あ、借り人競争行かないと」とすみれちゃんが言って、私も一緒に待機場所に行く。



「それではプログラム12番、借り人競争です! お題の書かれた画用紙を見て、その人を連れて来てください!」



 一体誰を連れてくることになるんだろう。

 そう思いながら緊張して待っている。


 先に1年生が行くので様子見。お題の書かれた画用紙を掲げてその人を探している。


「“親友”、“自分のクラス以外の担任の先生”……何かいけそうだね」

 すみれちゃんがそう言いながら眺めている。確かにあのぐらいならクラス席に行けば誰か来てくれそう。


 そう思いながら2年生まで終わり、次は3年生の番になった。まずはすみれちゃんがスタート位置につく。


「余裕余裕♪」

「すみれちゃん頑張って」


 よーいスタートの合図でささっとすみれちゃんが走っていき、画用紙を取る。しかしそれを見てかなり驚いていた。あれ? 難しいお題?


 すみれちゃんが掲げた画用紙には、

『転生したらハートの女王になってそうな先生』と書かれていた。


「ちょっと何これ! 誰を連れて来たらいいのよ……」

 余裕だと言っていたのに焦るすみれちゃん。

 他にも『前世は源義朝だと思うぐらい指導力のある先生』など、適当に選びにくいお題ばかりである。


 3年生だけこれって……ただ周りはかなり盛り上がっている。


「とりあえず……先生厳しかったし」と言いながら、すみれちゃんは吹奏楽部の顧問の先生を連れて行っていた。先生は「え?」という顔をしていたけれど、笑いながら一緒に走ってくれた。

 

 吹奏楽部の部員達はみんな大笑いしていて、歓声も聞こえてきた。見ている分には楽しそうだけど……これどうなるんだろう、私。


 すみれちゃん達がゴールしていよいよ自分の番。

 

 私が取った画用紙には、こう書かれていた。


 

『校長先生になりそうな先生(ただし校長・教頭・主任先生はナシで!)』


 

 ん……?

 一瞬戸惑ったけど……頼りになりそうな先生を連れて行けばいいんだよね?


 私は画用紙を掲げて、担任の藤井先生を探したけれど……あれ? いない?


 

 どうしよう……校長先生になりそうって……。

 


 いや、待って……いる……!

 一瞬、他の先生の顔も浮かんだけど――やっぱりこの人だ。



 私はクラス席の近くにいた松永先生のところまで走って行った。

「先生……! あの、お願いします!」

「お? 何だかプレッシャーだな、これ」

 

 そう言いながらも、松永先生は私と一緒にゴール地点まで走ってくれた。

「えー! 松永がー!?」という声も聞こえたけれど、私にとっては……これまでたくさん助けてもらった先生だから。


「ありがとうございます、先生」

「ああ、いいよ。それにしてもこんな風に呼び出されるとは」

「はい……だけど私は、先生には……色々お世話になったので」

「そうか」


 ホッとしながらクラス席に戻るとみんなが「おつかれー!」と言いながら迎えてくれる。


「松永が校長ってどうなるんだろ」

「考えたら笑えてきた」

「ドラムはかっこよかったよね」


 女子達と喋りながら息を整える。

「あのお題は焦ったわ」とすみれちゃんも言っている。


 男子達は「松永は怖いから校長はムリ」って言ってたけれど、その中でこう言う声が聞こえた。



「僕は松永が校長ってアリだと思う」



 竹宮くんだった。

 

「お、晴翔はるとは怒られてないからだって! ハハハ」と男子に言われている。

 そのまま話が変わって次の競技も始まっていく。


 竹宮くんが、認めてくれた。

 彼も先生と何かあったのかもしれないけれど……。

 みんなの前でそう言ってくれたのが、嬉しかった。


 そういえば、もうすぐ竹宮くんはリレーに出場する。

 応援しなきゃ。



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