第58話 侍女たちの想い 上
早朝、ライナスとアリアドネは馬車でピートアイランド王国へ出発した。
見送りに出ていた侍女頭メリルとミヤは、視界から馬車が消えた後もしばらく森の方を見ていた。
「お二人を無事に送り出せて良かった・・・」
ミヤは遠い目している。ここのところ忙し過ぎて、前回の休日がいつだったのかも覚えていない。
「本当にね。毎日のようにスケジュール変更があって、大変だったわね」
メリルは怒涛のような一か月を思い返す。
――――約一か月前の早朝、ライナスは一人の女性を抱きかかえて城へ戻ってきた。
彼は直ぐに侍女頭メリルを部屋へ呼んだ。
メリルが皇子の私室へ入ると、彼のベッドの上に金髪の女性が横たわっていた。華奢な身体にスッとしている美しい鼻筋、目は閉じているが長い睫毛には程よいカールがかかっており、頬はバラ色、小ぶりでプルンとしているくちびるに透明感のある肌、一目で美しい娘だと分かる。
なのに、身に纏っているのは手作りの赤いマントと粗末なワンピース?メリルは違和感を覚えつつ、ライナスが話し始めたのでそちらへ集中する。
―――――ライナスは『彼女は銀狼に驚いて気絶した』とメリルへ正直に話した。勿論、彼の乳母でもあるメリルはライナスの秘密を知っている。
『殿下、気を失った女性を安易に連れて帰ってはダメです。皇子が誘拐犯で捕まったら笑えません』
『誘拐・・・。いや、彼女は気も失っているし、そのままにして帰る方が酷いだろう』
『――――確かに森へ置き去りはもっとダメですね』
『だろう。メリル、彼女の世話を頼みたい。口の堅い侍女を補佐に付けてもいいから』
『承知いたしました。この件は皇后さまへお伝えしても宜しいですか?』
皇宮の責任者は皇后である。だから、皇宮に誰かが滞在する時は皇后へ報告しなければならない。しかも、今回は皇子の客人として女性が滞在する。報告漏れなどしてしまったら、深刻な事態を引き起こしてしまいそうだ。
『いや、皇后には私が伝えよう。メリルは彼女から離れないでくれ。皇宮内は安全とはいえ、このエリアには一度も女性を入れたことがない。何が起こるか分からないだろう?』
恐ろしいくらい過保護な発言を聞いてメリルはゾッとした。それと同時に、このお嬢さんはここから帰らせてもらえるのだろうかと心配になってしまう。
―――――ここまで回想したところで、ミアが話しかけてきた。
「アリア様のお蔭で殿下も普通の青年らしくなって良かったです。職員一同、殿下の代でこの国は亡びてしまうと真剣に考えていましたからね」
皇宮の職員たちは皆知っているのだ。ライナスの女性嫌いが尋常ではなかったということを・・・。
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