第59話 侍女たちの想い 中

 初めてライナスがお見合いをした相手は、幼いながらもプライドをしっかりと持ち、ツンとしているタイプのお姫様だった。ライナスが話しかけても『はい』『いいえ』としか答えず、笑顔も見せない。


 すると、お見合いの途中でライナスは突然、席を外す。しばらくして戻って来ると、彼は手に持っていた何かをお姫様の背中へ無言で入れた。


『ギャ~~~~ッ!!!』


 メリルは今もあの叫び声を忘れられない。ちなみに投げ込んだのは毒なしの蛇である。幸い、相手が弱小国のお姫様だったため、国交に影響は出なかった。


 次のお見合いはライナスが十歳の時。相手は皇后の母国スイザール王国の末姫、ライナスのいとこである。今回は彼の性格を考えて、皇后(ライナスの母)が兄(スイザール王国の王太子)に末姫を未来の妃として迎えたいと打診し、お見合いの場が設けられた。


 身内感覚で登城した末姫は最初からライナスへ気安く話し掛ける。


『ライナスって、いつも何をしてるの?』


『この城は花が少ないわね。庭師を代えた方が良いんじゃない?』


『ねぇ、少しくらい面白い話をしなさいよ!』


『はぁ!?銀狼が好きかって~。バカね、けものを好きな人なんていないわ』


『あんた、私が花嫁にならなかったら、皇子を首になるんでしょ?』


 最終的にライナスはおしゃべりの止まらない末姫の口へ、テーブルの上に置いてあった布(ふきん)を詰め込むという暴挙に出た。


 この事件以来、皇后はライナスの縁談に一切触れなくなったのである。皇后の侍女曰く『皇后さまは母国のお兄様から酷く怒られ、心が折れたのです』と。


 そして、最後に縁談話が上がったのは四年前である。縁談相手は西の大陸にあるパリス王国の第二姫だ。彼女は聡明で薬学の知識に長けていた。結婚に興味のない二十七歳、既に行き遅れである。国王が頭を抱えていたところへ、ライナスの父(皇帝)が縁談を持ち掛けた。


 結果は一番最悪といっていいだろう。第二姫は見合いの場に白衣姿で現れた。研究所で新薬の実験をしていると国王が現れて、そのまま馬車へ詰め込まれたのだという。


 彼女はライナスと挨拶を交わすなり、彼の銀髪へ手を伸ばす。


『魔力が溢れているわ。この髪が欲しい・・・』


 ゾッとしたライナスは彼女を後ろへ突き飛ばした。次の瞬間、第二姫はポケットから取り出したナイフを手にライナスへ飛び掛かってくる。


 護衛達が二人を止める間もなく、ライナスは第二姫の首を絞めて落とした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る