第4-1話 ブリシア家 上

 上質な絹をふんだんに使ってあるブルーのエンパイアドレスを身に纏い、アリアドネは優美なカーテシーをした。


「君の名は?」


「アリアです」


 念のため、偽名を告げておく。


「家名も教えてくれないか?カーテシーをしたということは貴族なのだろう?」


 失敗した・・・。しっかりとした挨拶をしてしまったのが仇となった。平民を装うつもりだったのに・・・。


 出会い頭に質問を重ねてきたのはこの国の皇子ライナスだ。彼は気性が荒く人を寄せ付けない狼皇子と世間では呼ばれている。


 今初めて会ったが、狼皇子と呼ばれるほどの荒々しさはなく、どちらかと言うと美しい男という印象だ。特に腰まであるサラサラの銀髪はかなり目を惹く、そして、細身で身長はかなり高い。


「――――ブリシア家です」


 熟慮した結果、アリアドネは嘘を吐くことにした。


 ここで本当の名を告げて父を呼び出されてしまうと、また継母たちから激しい折檻を受けることになるからだ。


「ブリシア家・・・、ピートアイランド王国のブリシア公爵家か?」


「――――は、はい・・・」


 アリアドネは身バレを恐れて、母の実家の家門名を口にしたのだが・・・。


――――ブリシア家が想像以上に高位貴族であるということを知って動揺した。


 皇子はアリアドネの顔色が悪くなっていく様子を見て、大きな勘違いをしてしまう。


 彼はアリアドネの前に跪いた。


「君は国境を越えてしまったと気付いてなかったのだろう?」


 心配そうな眼差しで彼女の顔を見つめている。


「――――はい、驚きました」


 思いがけず、皇子が彼女にとって大変都合の良い方へ勘違いしてくれたので、アリアドネは話を合わせることにした。

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