第3-2話 知られていない娘 下

  勝手に読んでもいいのだろうかと少し悩んだが、好奇心に負けてページをめくってみると・・・。


 アリアドネは母が隣国ピートアイランドから嫁いで来たということを始めて知った。そういう情報もこれまでアリアドネの耳には一切届かなかったのである。


 母方の祖父母の存在を知った夜、アリアドネは一人で泣いた。


 隣国の祖父母に今すぐにでも会いに行きたい。母のことを聞いてみたいという気持ちが溢れて来たからだ。


 とはいえ、クローシュ伯爵家で自分の希望を素直に口に出したところで、許可など貰えるはずもない。


 だから、森にキノコ狩りへ出掛けるふりをして、早朝に屋敷を抜けてきた。――――とにかく、ドラクロア城の裏手にある国境を超えてしまおうと・・・。


 それなのに森で飛び出して来た銀色の狼に驚き、いとも簡単に気を失ってしまった・・・。


「アリアさま、お湯加減はいかがでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


 何故、自分は今、見知らぬ城で湯浴みをしているのだろうとアリアはため息を吐く。本当なら、もう国境を越えて隣国へ足を踏み入れていたはずなのに・・・。


「では、御髪を失礼いたします。――――まぁ、本当に美しいですね。手触りも絹のようだわ・・・・」


 嬉々とした声でアリアドネの髪を洗っているのはミアという若い侍女である。この後、身なりを整えて、アリアドネは皇子と面談しなければならないのだという。


 どうしてこんなことに・・・と、悔やんでも、仕方がない


 全ての過ちは森を甘く見ていた自分にあるのだから。

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