第4-2話 ブリシア家 下


「挨拶が遅れた。俺はドラクロア帝国の皇子ライナスだ。今朝は俺の銀狼が君を驚かせてしまったと聞いている。お詫びに責任を持って君の家まで送ろう」


 ライナスはアリアドネに向かって手を伸ばす。


 アリアドネは何も考えずに彼の手を取った。ライナスは彼女の手の甲に口づけを落とす。


「!!!」


 ライナスは美しい所作で立ち上がり、ライラに微笑み掛ける。


「本来、俺の銀狼を見た者はこの城から帰れないのだけど、君はこの国の民ではないからね。今回は例外とする。だから、今朝見たことは決して口外しないで欲しい」


「は、はい!口外したりはしません」


 アリアドネはゾッとした。


 皇帝一家は神獣と契約しているという噂話を使用人から聞いたことがある。あれは都市伝説ではなく真実なのかもしれない。


 隣国の者だから特別に見逃してあげるという言葉の裏にあるのは、この国の民だったら口封じで殺すということだろう。

 

 アリアドネは引きつった笑みを浮かべて、絶対にこの国の民だとバレないようにしなければと何度も心の中で呟いた。

 

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