第3-1話 知られていない娘 上

 十六年前にクローシュ伯爵家の第一子としてアリアドネが産まれた時に、彼女の母は難産による大量出血で神のみもとへ旅立ってしまった。


 そして、アリアドネの父、アーサー・ロマ・クローシュ伯爵は亡くなった妻の喪が明けないうちにモディオダール男爵家の長女マティルデと結婚した。


――――実は父と継母マティルデはアリアドネの母が現れる前から恋仲だったのだという。


 しかし、前クローシュ伯爵が『男爵家と伯爵家では家格が釣り合わない』と、二人の交際に反対し、アリアドネの母との縁談を息子に押し付けたのである。


 一度はアリアドネの母との政略結婚で縁を切られた二人だったが、幸運なことに政略結婚の相手がいとも簡単にこの世から消え去ってくれた。


 だから、これはチャンスだとばかりに周囲の目も気にせず、二人は再婚したのである。


 前クローシュ伯爵も血筋の良い孫、アリアドネが産まれていたので、再婚に関しては口を出さなかった。


――――正直なところ、もう身勝手な息子のことを諦めていたと言った方が正しいかも知れない。


 その後はお決まりのコースである。継母と二つ歳下の双子の妹たちは前妻の子アリアドネを嫌い、使用人以下の扱いをして長年、彼女を虐げ続けた。


 父親は気づいているくせに、見て見ぬふりを貫いている。また、前クローシュ伯爵はアリアドネが三歳の時に病に倒れて亡くなったため、その後の惨状を知らない。


 年頃になった妹たちは煌びやかに着飾って、お茶会に舞踏会にと毎日忙しくしている。昨夜も泥酔して帰宅し、大騒ぎをしていた。


 一方、アリアドネはデビュタントどころか、帝国民の義務である魔術洗礼式さえも受けていないので、全く社交界に認知されていない。世間のことも、使用人たちの噂話で知るくらいだ。


――――そんなある時、アリアドネは屋敷の倉庫で母の日記を発見する。


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