旅立ち

「武器売りますって……何で……」

 基礎教育学校で掃除の時間に、俺が殺そうとした虫を逃がすような奴だった。

 帰り道、俺が何も思わなかった夕暮れの空を、綺麗だと言うような奴だった。

 親父に叩かれた俺の頬を見て、塗り込んでおけと薬をくれるような奴だった。

 何故、武器を売っているのだろう。新聞に載っている顔は、あの頃よりも痩せこけていた。


 彼奴のことが気になり、調べ始めた。俺が新聞を読まず、人付き合いもしないため世間に疎かったというだけで、二年程前から武器を売り出していたことが分かった。とは言っても、話題になり始めたのが二年前というだけで、実際はもう少し前から売っていたのだろう。

 武器は、剣を始め、戦斧でも、槍でも、飛び道具なら弓でも銃でも、大砲でも売っているようだった。売れている理由は、質らしい。値段はそれなりだが、全てに炎が纏い、剣を振れば炎が斬撃となり、銃を撃てば着弾したところから炎が吹き出すそうだ。隣町の火事の原因も、これだろうか。

 彼奴は、かつて滅ぼされた炎の一族の、最後の生き残りだった。俺にだけ教えてくれた、秘密だった。

「今のお前は、確かに良い奴とは言えないよな」

 全てが知りたい。彼奴が今いる場所も、卒業式に来なかった理由も、あれからどうしていたのかも、武器を売っている理由も。

 俺は、彼奴を捜すことにした。


(お前、良い奴だよな)


 ふと、かつての彼奴の言葉が過った。

 違う、俺が会いに行くのは、良い奴だからじゃない。お前が脳裏から離れない。だから、晴らすだけだ。このもやもやを。


 どうやって彼奴の行方を追うかは、武器屋を回ることしか思い浮かばなかったので、しらみ潰しに武器屋を渡り歩いた。彼奴は、新聞の広告なんかには顔を出しているが、表には出ないらしく、どの武器屋に聞いても、ウチも仕入れたいが仕入れ方が分からない、とのことだった。

 あの顔写真も、恐らくは二年前のを使い回しているんだろう。

 武器が売れるのは、治安の悪い国だけではない。統治の為、護衛の為、自衛の為、狩りの為、要は比較的平和な国でも売れるということだ。そして、そういう国には、金がある。

 今までは自国と隣国しか回っていなかったが、角金貨二枚から、と書かれていた彼奴の広告を思い出し、多少離れた国へ向かうことにした。

 しばらく帰れない、長い旅になるだろう。俺は、仕事を辞め、下宿を出た。これまで鉱夫として働いていた分の貯蓄は、長旅には心許ないものではあったが、そんなことはどうでも良かった。

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