第3話 田舎

 そのような町が、鯨浜だった。

 字峰あざみねはまだ18歳だったが、それでも遅い方である。


 この町は海の方にあり、都会とは山で隔てられていた。人の交流もあまりなく、古い話がいくらでも残っている、民俗学者が見れば「ほー」となるような町なのである。


 地元民どうし、親戚で結婚する話が多い。

 血を絶やさないため、外に流出させないため、老人たちが安心するため。様々な理由で、この地に生まれる古い家系の少年少女は結婚相手を早めに決められてしまう。

 俺の家はそう古くはなかったので、そこまででもなかった。

 しかし字峰は、いわゆる名家と言われる家の娘だった。


「相手は38歳。よく知ってる親戚でね」

「……」

「ふむ。君に話して正解だったようだ」


 答えられない俺に、字峰は薄い微笑みを深くした。


「嘘でも、おめでとうなんて言わないのだろう」

「……そりゃあ、まぁ」

「インターネットというのは毒だね。私たち子供に世間を教えすぎる。知らなければ、まだいくらか喜びようがあったのだが」


 字峰は金網から離れ、その音を背に残しながら、俺の横を通り過ぎるように、この屋上を立ち去ろうとした。


「式は、明日でしたか」

「あぁ」


 それだけ、言葉を交わした。

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