『土曜日(2)』

ボクは走る。羽根を広げて飛ぶ。憩さんはそれを見て宙を飛びながら指示を出す。

そうしてボク達は空白まみれの虚妄の中を駆けていく。

『どこがどこに繫がってるのかわかんない〜……!!』

憩さんがさじを投げそうになっている。こうなった原因は、2階の階段を上がったらなぜか1階に着いてしまった事と確認の為に教室のドアを開けて通った事の2つのみ。

(今、匙を投げられるのだけは困る…………!でも解らないのは本当だし……。)

そのとき。

甲高い音が響いた。



          『『「聞けーーーーーー!!!!!」』』



(うぇっ!?!?四番目はこっちにいたの!?)



『『「困ってそうだから……っはぁ……定期的になんか放送するーーーー!!!!」』』



助かる。非常に助かる…………けど。

((…………放送してる時点で声は大きいんだから本人が声を大きくする必要はないんじゃ……。))

なんて事を2人で同時に思ってしまった。

「本人の声は大きくしなくて良いんじゃない?」



            『『「た、確かに……。」』』



         『『「じゃあ、普通の声量でなんかしとくね。」』』



「『おけぇい。』」

憩さんと同じ返しをしてしまった。

こういうときだけは誰かと反応が被ってしまう。

「被ったなぁ。」

『被ったねぇ。』

『支障が出るわけでもないし気にしなくていいよ。』

「まぁ、そうだな。」







         『『「そこは、開けないかな。」』』

         『『「ドアを視界の正面に捉えて下がる感じ………………。」』』



         『そうそう…………あ、足元穴あるッ』





そう言われかけてボク達が穴に落ちたと同時にあちらの放送が強制的に切られた。

「…………おわっ……とと。」

落ちた、と思っていたが、どうやら上がってきたらしい。原因である穴から思いっきり飛び出したのでその場でバランスを崩しそうになった。

「な……何階…………?」

『ん〜と…………』

次第に声が小さくなっていくので、そう言いながら遠くへと行ってしまった事がわかる。小さくなっていく声は聴こえなくなった。




『…………ん階だって。』

できればこちらに来ながら話さないでほしい。こちらに来てから話してほしい。そうしてくれないと聞き取りきれない。ボクは地獄耳じゃないんだから。

『屋上のドアが近くにあると思うよ。』

「……そっか。」



屋上への階段を一段ずつ昇って行く。

いつもより多く感じた段数が気の所為なのかそうでないのかは気にしなくてもいい。

そう。つまりはただ、歩いた。歩くだけで屋上のドアの前へと辿り着けた。

『準備ができたら開けようね。』

ドアノブに手をかける。



呼吸を整える。





ドアノブを回す。






ドアが開く。







一歩踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る