【カーテンコールが来る前に】

コツ、コツと足音が立つ。

周囲を見回し、状況を脳髄に取り込もうとする。


…………屋上には先生がいるくらいで何も無い。それに、よくある屋上に見える。

「あ、来ましたか……。」

屋上のフェンスにもたれていた先生がこちらに気付いた。

「…………えっと、本物の先生でいいんだよね?」

「はい……大丈夫ですよ。私は現実の蛇塚先生萌宮早芽です。」

「…………それで、ここはどこでしょうか。」

「さぁ……ボクもあんまりわかんない。…………いつからここに?」

「2日前くらいから……ですかね。恐らく。多分。」

(物事への保険が凄いな……。)

なんてツッコミは抑えておいた。偉いな、ボク。

「ここって何か起こるの?」

「さぁ…………?」



先生と内容の無い会話を続ける。


「うわ。」

「あ、な……なんでしょうか。」

…………何故か突然端から周囲が暗くなってしまった。

まるで懐中電灯で照らせない真夜中のような暗さだ。

パッ、とスポットライトが先生とボクに当たる。

「い、一応盾を構えておきますね。」

どこから出したのか、先生はすぐに盾を手に持ち構えた。

「ボクは…………何もできないかな。まぁ仕方ないか。」

「…………。」

端から周囲が明るくなり、視界を確保する。






「眩し……っ…………いですね……。」

「うぅ……目が痛くなりそ…………。」

「…………あ、れっ。次元の方にいたのになんか引っ張り出されちゃったぁ。」

「「あ、憩さん。」」

「なぁに?」

「ここはどこだと思いますか?」

「ん〜……体育館かな。演劇部のセットが設置されているみたい。」

「あ〜〜……このハリボテすぎる見た目はそうだよね……。」

「う〜ん……配置が雑すぎる。劇好きの故が見たらなんて言うか…………。」

「故さんは劇が好きなんですか……?」

「ちょっとだけね、ちょっとだけ。」



「ごちゃごちゃうるさいわ。こんにちは、御三方。」

「え?あ、はいこんにちは…………。」

「まぁ……こんにちは?」

「空の時間は夜だけどなぁ……?こんばんは。」

「今回君達をここに喚んだのは_______________________」




「意味も無く、喚びましたね?」

故の声が聴こえたかと思えば、ゴン、と音がして目の前にいた学生くらいだと思われる少女が倒れた。

「うわぁ…………。」

「なんだか…………呆気ないですね……。」

「故ちゃんが強い…………強強の乙女だぁ……。」

「うるさいです。」

「…………いつ話そうかと悩んでたんだけど、な〜んか故ちゃんのその見た目に心当たりがあるなぁ…………。」

「あ〜……。私も憩さんの言いたい事に心当たりがあるね。」

「…………もしかしてなんだけど。片腕に人形乗せてたりしてない?」

「あ、それ∞遊園死カーニバルに置いていった別の私。」

「あぁやっぱり…………。故ちゃん……ワタシね、あそこ嫌い…………。」

「……どれが嫌?」

「…………ピニャータが特に嫌。アレ痛い。身体がボロボロになるまで棒でぶん殴られるから嫌。」

「わかる。アレは見てる私も嫌。」

ボクは2人の雑談を故の背中にもたれながら聞いていた。


「あの……この人どうするんですか…………。」

足元に倒れている少女を見ていたらしく先生がそう聞いてきた。

「「「え?勿論放置するけど。それかこの学園に幽閉。」」」

3人揃って息ぴったり。ボク達の考えは同じだったらしい。






「……本当にここから戻れるのか?」

今、ボク達はこの学園の校門の前に立っている。

「うん、先に情報だけ教えてくれた吸血鬼の通りなら……そう。その筈。」

「故がそう言うなら……信じるけど……。」

「「「「…………………………。」」」」

「まずはワタシが行きま〜す!」

憩さんはそう言って校門を抜けた。

………………と同時に姿が消えた。

「戻れてる…………のかな。」

「そう信じて行くしか無い…………でしょうね。という事で私も行ってきます。」

先生も同じく校門を抜けた。

………………今度も姿が消えた。

「…………。」

「…………。」

「…………ねぇ、故。」

「何〜?」

「今回は色々とありがと。故が手を出してくれなかったらあのまま生徒になってた気がする。」

「んふふ、どういたしまして。」

故が横からボクにすり寄ってきた。……ので抱きしめる。

「…………あのさ、故。さっきの…………鞄でぶん殴ったのはなんで?」

「あ〜〜〜……あれね、色々あって思いっきりぶん殴る選択をしてみただけ。」

「色々って何…………?」

「体育館に着いたらあの子がいてね?だから色々聞いたらディベートが始まっちゃった。」

「で、止まらなくなったから手を出した、と…………。」

「え、当たり!!お兄様凄い!」

「いや……流れがもう…………暴力まで一歩手前っぽかったから……。」

「まぁ……流れでわかり易かったね。」

「……お兄様。雑談は後にして1回帰らない?」

「そうしよ。」

2人、手を繋ぐ。

ボクはただ手を繋いだけだったけれど、故は嫌だったのか恋人繋ぎに変えられた。

ゆっくりと前へと進み、そのまま校門を抜けた。

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