早朝、理科室で目を覚ます。

「おはよう、おはよ…………。」

ゆっくりと身体を起こし、とぼとぼと準備室へと歩いていく。

調子を整えているところは見られたくない。だから登校の時間になるまでは準備室の中に引き篭もる。

「…………ん。んん……。」

机の上で寝たせいでついてしまった白衣のシワを伸ばす事にさほど時間はかからなかった。それとは関係ないがとても眠い。気を抜けば寝てしまいそうだ。

（顔……を洗ってと…………。）

時計をちらりと見れば、もう四限目の時間になっていた。ので急いで準備室から出て理科室を通って廊下に出る。

そして少しだけ早足になって廊下を歩き、階段を降り、入る教室がある階に着く。

（な……なんで…………！！）

教室の窓から見える生徒達を見てそう思った。

調律者のおかげで意識が冴えてきている。

そのおかげで解る。

（顔を洗った程度じゃこんなに時間は経たない筈…………。）

それから少し歩いて、教室のドアに手をかける。

ドアを横に動かす。その音が聴こえたのか、生徒達も先生も一斉にこちらを見た。

ボクの席は窓側の後ろの後ろ。何もない空席。そこには無いのに、ボクの視界には存在しているたった一つの席。…………待って。ボクが入る教室はここで合ってる？？？

持ってきたノートを机の上に広げて開き、

瞼は下りなかった。

焦り。疲労。協調性の強要を受けた事での思考停止。

人に合わせる、という行為には疲れが伴う。そして心が擦り切れて脆くなるのだ。

（ボク、ボクは…………）

（えっと……ボク……………………。）

（ボクは…………………………………………。）

とり憑かれたかのように手が動く。

皆との協調性を示すように手に握ったペンでただ書く事だけを行う。

『…………。』

『…………。』

それを見ていた者が静かに口を開いた。

『…………お兄様。』

その人物はフィリアが手に握っていたペンを力強（ちからず）くで奪い、近くの窓へと放り投げる。

放り投げられたペンが窓を割りそのまま地面へと落下したのはまた別の話だが＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

『…………お兄様。』

その人物は放心したフィリアを優しく抱きしめた。

……ただ、優しく。冷たい身体が温かくなる瞬間がある事を信じて抱きしめ続けた。

『………………お兄様。』

チャイムが鳴り、2人の周囲がざわつきはじめた。

『そんなに協調性って大事かな。』

『協調性は人を苦しめて壊してしまうだけなのに。』

『確かに協調性は大事なものだよ。それは私もわかってる。でも、強要はダメだと思う。』

『強要して何になるの？大人になれる訳でもなければ願いが叶う訳でも無い。成長できる訳でも無い。』

『…………協調性が成長に繋がると思ってるのなら、その考えは諦めた方がいいよ。』

『成長は自己な努力から生まれます。そうしてその成長が大人への道へとなっていくのです。』

『そして、老いて全てを忘れていくのです。』

『それが人間の基本でしょ？』

『それが、人間の生。』

時間は穏やかな川のように流れ進み、人々の足は孤独に自然を噛み締める。

人々は関わり交わるけれど、それは一瞬の出来事に過ぎず、最後は孤独で締め括られるのだ。

『だから、お兄様。』

『いや、違うな…………』

『…………ダーリン！！！』

とても優しく、愛情で溢れた人物は

『ダーリンの愛した自由を私にも感じ（愛）させてよ！！！！』

フィリアの両の手を自身の両の手で包み込んだ。

フィリアの視界に、精一杯微笑む人物が1人。