29話「し に たひけり」

戦況は予想がつくようなものになっていた。

わたくしは2回死に、調律者は1回死んだ。

(次死ねばわたくしが負ける…………。)

わたくし側は攻撃が出来ない。防御かカウンターしか出来ない。もしくは無理矢理弱らせて衰弱死させる事しか出来ない。

手に持っているメガホンをもう一度構える。



    「「「「「ざーこ!!!!ざーこ!!!」」」」」



そう言えば、音波が形となって調律者の方に向かっていく。

こんな感じで、思いきり良く無理矢理弱らせる事しかわたくしには出来ない。

(…………あぁ、喉が痛くなってきた…………。)

体内時間の通りなら、既に2時間程度は経っている。そのせいか、お互いに疲れが見えてきた。お互いに動きが鈍くなってきた。



それでも調律者の腕の動きはしっかりとしている。避ける事も出来なくなっているわたくしと、鈍くても尚機敏に動き続ける調律者。

勝ったのは、勿論________________









わたくしの肉体を傘で貫いた、調律者の方。


「ぅ゙、ああ゙…………ッ…………………………。」

まだ肉体が再生しきっておらずにうつ伏せになっているわたくしの腕が、かなり力の抜かれた調律者の足で踏みつけられる。

「…………中々に良かった。僕は戦う気はなかったが……」

「………………まぁ……こういうのもいい……。」

「…………僕は疲れた。」

足が退けられ、わたくしの隣に寝転がってきた。

「…………だから寝る。」

「…………。」

「…………君はそのままだと見えないだろうけど、今日は空に散らばる小粒の石がとても綺麗だ。」



少しの時間が経ち、隣から小さな寝息が聴こえてきた。

(……あ、本当に寝ちゃった。)

喉から血が出る前に終わってよかった、とだけ思いながら瞼を下ろした。





一方その頃。唯一ワープをしていなかった故は、負けが見え始めていた。

(あぁもう……!このままじゃ普通に負けちゃう!!)

味方として呼んだキーパーは装甲と肉体が崩れ始めながらその場で留まってしまっている。

(動けるのは私だけ……なんだけど。)

神の相手は1人だけではかなり難しい。

(他のキーパーを喚べるけど……………………。)

(けど私の事は知らない…………から神を気にせずに殺しに来る…………。)



(…………私がどうにかするしかないかな。)

(能力……の前にパーツを起動しなおして…………)

(…………ん、あ、やっぱり無理っぽいね。この神はそういう力を持ってるみたい。)

(…………え。じゃあどうすればいいの。負け?このまま死んでおくべき?)



(…………どうにかしてキーパーだけ逃がせないかな。)

(逃がせたら…………いいな。)

その場に跪き留まっているキーパーをもう動かない片腕で無理矢理抱え、まだ動く片手で鞄の持ち手をまた掴む。

(お、もい…………!!)

女の私にキーパーは抱えきれない。


キュイイィィィィィィィン…………



と音が鳴り、正面を見る。

神の…………人間でいうところの心臓に位置する物…………が眩しく輝いている。

(あ、これはマズい。)

キーパーの重みと戦い続けた疲労と身体の傷のせいで動けない。

(私は、動けな__________)





正面から高温のビームが飛んでくる。

その温度を少し受けたのか、指が溶け始めたのが見えた。











私の肉体も、このキーパーの存在も。そのビームであっけなく焼け散った。

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