25話「傘下の無表情な者」
夏休みが始まり、先生達や生徒達はのんびりと寮の自室で過ごしている。
この学園は、夏休みと冬休みだけは先生と生徒という1つの境界線が取り払われる。
プールで遊ぶ生徒、生徒とふざけ合う先生………………そんな様子を静かに見ている存在がいた。
「……。」
その様子を、校庭で先生と数人でボールで遊んでいた1人の生徒が見つけた。
「先生、あそこ。あそこに誰かいる。」
「あそこ?」
「……。」
人の姿は見えないが、無地の傘は見える。つまり、そこに誰かがいるのは確かという事だ。
「そこの君、人間じゃないのはなんとなくわかるけど、なんでそこにいるんだい?」
「……。」
「………………こんにちは?」
「…………。」
「こっちに来れるかな。」
「…………………………行かない。行けない。」
「そっか。それじゃあ仕方ないね。」
「僕達はこのまま遊んでるから。来たかったら来てもいいよ。」
「…………うん。」
「あ、それ、ラジカセ?」
「………………うん。」
「音楽かけるの?」
「…………うん。」
「何かけるの?」
「…………持ってるCDのやつ。」
カチ、カチリ。
とラジカセを動かしている音がする。
…………ほんの数秒をかけた後、ラジカセから音楽が流れ始めた。
「…………。」
「…………。」
「おお、カートゥーンっぽい。古いけどいいね。」
「…………うん。これ、好き。」
「じゃあもっといいね。」
「…………………………うん。」
その存在は木の裏に座って、ラジカセを通して流れる音楽を聴きながらのんびりと過ごしていた。
…………空は眩しげな橙の色に染まり、浮かぶ雲も美しく輝いている。
もう、夕方だ。
先生も生徒も寮の自室へと帰り、校庭にある音は流されている音楽だけとなった。
「…………。」
『「Swinging ropes. Crushed heads. No sin. No answers.」』
『「Shall I walk back through the darkness once more?」』
『「There's no reason or meaning to me being hung! I know that!」』
「……ん、あ、夜。」
目を閉じて、音楽のとおりにサビを口ずさんでいたら辺りが暗くなり、夜になっていた。
「………………暇。」
瞼を開き、その場から動かず身体をゆらゆらと揺らす。
『「I got a letter from you. I can't read it anymore.」』
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