21話「楽園(3)」

腕は上から垂れた鎖で巻かれ、足は開いたまま固定されている。

「……。」

肉体だけがここにあったときも、きっと身体をまさぐられていたに違いない。

ここ地下牢に降りてくる音が聴こえて、あの男が来たのだと気付いた。



一角獣のような、額に生えた角。

馬のひずめのような靴の裏。

緩く結ばれた横髪。優しさを甘さのある瞳。

嗚呼、やっぱり。姿は変わっていない。

「久しぶり。槐。」

下の名前を彼に教えていない。だから苗字で呼んでくる。

「…………。」

ワタシの名前はえんじゅ 憩。

元の名前は、苗字の方は憶えていないけれど、下の名前は憶えている。

異児いご。それが元々のワタシの名前。女を望まれていたせいで、男としての性を望まれていなかったせいでなんとなくで適当に付けられた名前。

ワタシは今もあの名前は嫌いなままだ。


ワタシの一族はワタシを女のように見せたいらしかった。

だから髪を切ることは許されなかった。

だから身体を細く見せる為に食事に制限があった。

だから着物を着ることが多かった。

だから、ワタシの事を歪だと、彼は嫌うものだと思っていた。

愛を求めていたこの身体に、彼は躾をした。そして、堕ちたとき。彼は愛を授けてくれた。




そういえば。彼は躾けられ、堕ちたワタシのこの瞳が好きらしい。可愛らしくて、微笑ましい……とか。ちょっと何を言ってるのかはよくわからないけど。

「良い子だね。ご褒美をあげちゃおうかな。」

ご褒美。嗚呼、きっと、きっとアレがくる。


彼の事は嫌い。嫌い。でも好き。男が男を好きになる事は変だ。でも今の世間ではそれなりに受け入れられている。つまりは普通だ、普通。

好き。嫌い。好き。嫌い。好き。好き。好き。愛している。

ー楽園の主の視点ー

(あ、可愛い。)

彼の肉体だけが残されたとき、極限まで快楽を与え、躾をしておいた。

彼の顔を覆う布を取る。


あぁ……………………………………惚れるくらいに美しい。

こんなにも美しい顔は、私でも造れないし天使にも私にも無い。

(いつ見ても…………美しい…………。)

初めて会ったあの日。彼はまだ、顔を布で覆っていなかった。まだ、背の低い子供だった。

体罰と奴隷のような扱いを受け、ロクな教育を受けていなかった彼に本を見せた。

彼はこの楽園で少しずつ知識を蓄えた。私は、気付けば彼を殺していた。

私は始祖が生まれる瞬間を見た。彼が始祖となる瞬間を見た。彼は最初の始祖と成った。




それなりに育ってきたので楽園から解放した後、彼は悲惨な目に遭っていた。

あまりの美貌に、惚れられ殺されかける日常を送っていた。

顔を見た者が男なら、彼を憎悪で殴ろうとした。

顔を見た者が女なら、彼への嫉妬で殺そうとした。


彼は顔も体格も、骨董品や芸術品のように美しい。だから、それが絶えなかった。

なんとなくで方舟を見てしまったらしく、もう一度楽園へと来てしまった。


そして、私は、青年となった彼の顔を見た私はもう一度惚れた。




彼に顔を覆う為の布を渡した。

彼はここで生きてくれていた。嬉しい。ありがとう。


そう思いながら、優しく抱きしめた。





最後に死んだのは、長い緑髪を三つ編みに結った、暖かそうなポンチョを着ている青年です。

彼に敵意を向けた天使達は困っていました。

なぜなら、彼に能力を使われてしまい、身体が石のように硬くなってしまったせいで攻撃が通らなくなってしまったのです。

それを見た楽園の主は、とある提案を持ちかけました。

内容はわかりませんが、彼はその提案を受け入れたそうです。

茨は彼が変形させられ戻らなくなってしまった四肢を縛りました。そして、別に伸びてきた茨が石らしい顔の一部を突き壊し、そしてそのまま彼の眼球を勢いよく抉り取りました。彼は何もせずにゆっくりと衰弱して死んでいったそうです。




ー七番目の視点ー

あの人に許可は取った。

彼女が待っている事を信じて花畑へと戻ってきた。

ただ、それだけの事。



気持ちよさそうに眠っている彼女の隣に寝転がる。

ずっと日の光に照らされていたらしく、身体がとても温かい。

「…………故。」

「故、起きてる?寝てる?」

茨がこちらへと伸びてくる音がし始めた。どうやら、ボクも一緒に死ぬらしい。

(まぁ……それも興かな。面白いよね。)

「どっちでもいいけど…………そろそろ、真面目にボクの名前を教えようと思うんだ。」

温かい彼女の身体を優しく抱き寄せた。

茨が足に、羽根に巻きついた感覚がした。

彼女と離れないよう、腕にありったけの力を入れて抱きしめ続ける。

「あのね、ボクの……名前はね……」


一瞬、彼女の目が開いたような気がした。聞いてくれているような気がした。

茨がボク達の身体に巻きつき、絞めつけ始める。


苦しさと、じわじわとくる痛みに悲鳴が出そうになった。

「フィリア、って…………いうの。」

ボクと彼女の身体を縛った茨が、ありとあらゆるところを絞めつける。

肉体から力が抜け、そして今、ボクは初めて死を知った。











やけに重い瞼が開く。

ボクは学園の理科室の机の上で故と抱きしめあって眠っていたらしかった。

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