3章『変点』

19話「楽園(1)」

ゆありゆあり。ゆありゆあり。

透き通った明るい色の水の上に、方舟が停まる。


ゆありゆあり。ゆありゆあり。

方舟の舟守は来客を待ち続けている。


ゆありゆあり。ゆありゆあり。

さぁ……逝こう…………楽園へ……安息の地へ………………。



昔々、人々がとある噂をしました。

“この世界のどこかに楽園のような場所がある”

“安息の地を見つけた”

突然現れた噂に、正気の人々は「ただの夢物語」だと信じていませんでした。

…………ある日、楽園の天使を名乗る存在が現れるまでは本当に信じる気がなかったのです。




夏祭りと、その振替休日明けの月曜日。

久々の授業に、つまらなさを感じながらも受けていた。

(……ぁ゙〜〜……眠い。)

2限目は数学。

今日の授業内容が数年前に習った範囲だったせいで、楽々と解けてしまう。


今日も後の授業はサボろうかと思っていた時。聞き覚えのある笛の音が聴こえた。

(ん……どうしよう。迎えが来ちゃった。)

(…………次の授業は記憶を改竄かいざんして抜けるか。)

よし、そうしよう。

あとは…………………………






「……えぇ……ヤダぁ……。」

授業後の休み時間。今日も生徒のフリをしているであろう憩さんを見つけ、首根っこを掴んで引きずり回し、空き教室に放り投げた。

「もうあそこには行きたくないよぉ……!!」

「やだよやだよ…………あそこ嫌い…………。」

……憩さんは倒れたままずっと駄々をねている。まるで子供みたいだ。


故をメールで呼び出している間に、支度をする。




その天使は、こう言いました。

“この世界で最後の1人。その1人になったら楽園に連れて行ってあげる。”

それを聞いた人々は、楽園がどういう場所なのかを天使に聞きました。




崩壊と厄災で荒れ乾いた地に、やけに美しく見える湖がある。

その隅に、1隻の方舟が停まっている。

それは、ボクだけではなく……2人にもしっかりと見えたらしい。

「…………ワタシ、また逝くんだ。あ〜ぁ……。」

「…………もうやだよ〜……。」

経験者はこれから起こる事を知っているせいか、明らかに無表情そうな声色で嘆いているらしかった。


「綺麗な湖だね。」

「うん。そうだね…………。」

会話が続かない。

なぜなら、こんな会話をしようとしているが、方舟に視線を無理やり向けるようにされているせいで、誰と話しているのかがわからないからだ。



_______気付けば、3人方舟の中にいた。

見知った顔が、ボクの顔をちらりと見て舟を動かした。




あるシスターは聞きました。

「楽園という場所には、どのような生物がいるのでしょうか。」

天使は答えました。

“君達がよく知っている動物……猫とかそういうのね。そういう、危害を加えない動物が沢山いるよ。あとは植物だよね。……花と、薬草が多いかな。生物はこのくらいかな。”


ある花屋が聞きました。

「楽園には、1人しか入れないの?」

天使は答え■■た。

“残念ながら、■■■入れないんだ。ごめんね。”


ある青年が聞きました。

「この世界と楽園、どっちが平和?」

天使■■■■■■■

“■■■■■■■■”


ある■■が■■■■■。

■天使は■なないの■■■?」

■■■■■■■■■

“■■■■■。”




ゆありゆあり。ゆありゆあり。

方舟が透き通った水の上をゆったりと漕ぎ進めて逝く。


暗む場所を通り…………異常なくらいに明るい場所が正面に見えてきた。


ー六番目視点ー

虚ろな眼をして固まってしまった2人を、ただ抱きしめる。

(2人みたいに…………気にせずにいられればよかったのに。)

ちらりと周囲を見る。…………視た。

視界の端がくもり、正面だけがくっきりと、鮮明に照らされる。

目が痛くなってしまう前に目を閉じる。





気付けば、楽園の地下牢の中に居た。

(そうだった……身体をここに置いてきてたんだった…………。)

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