1話 4 待つだけなのが一番キツい


 移動手段も通信手段も失い、孤立してしまった。


 けれど、この霧が計器類を止めるなら、彼らは私たちに近付けない。

 ステルス仕様の軽装甲車には窓が無い。視界は全てカメラ越しだから、ここに突っ込めば足が止まるだけじゃなくて目まで潰れる。


 皮肉な話だけど、彼らの仕掛けたこのノイズを撒き散らす霧が今のところ私たちを守る唯一の盾だ。


 横目でカインをちらっと見て呟いた。


「‥‥この霧、もしかしてコントロールできないやつだったりすると思う?どうしてさっさと霧散させて撃たないんだろう」


「当該ナノ粒子の制御可否:不明。

 可能性:敵性環境制御下における行動パターンの収集中」


「はぁ‥‥やたら静かなのはそのせいか」


 ‥‥なんにせよ、味方が来てくれるまでじっと待つ以外の選択肢は無い。




 小さく息を吐いた。そっと強ばっていた筋肉が緩んで、銃を持つ手がわずかに下がる。


 その時、急に霧の奥から大きなホーンが鳴り響いた。


 反射的に肩が跳ね、思わず銃を強く握った。


『おいッ!いるのは分かってるぞ』


 スピーカー越しの声が響いた。

 まさか敵が話しかけてくるとは思っていなかった。


『トラップ発動後もバイタルはピンピンしてやがった。

 さっきの2組はコケてクラッシュしてくれたからラクだったけどよ、お前はまだ中で生きてんだろ?

 安全運転でもしてたのかよ?気楽でいいなァ!』


 トラップの近くに生体データを計測する機器でも仕込んでいたのだろう。


 そしてまたホーンが軽快に響く。

 ‥‥なんで三三七拍子なんて知ってるんだ、こいつは。


『奇跡的にバイクが動いたとしてもどうせ逃げられねえんだ。

 早く出てこい!たった一人で、どうやって生き延びるってんだよ、オイ!』


 『一人』、か。

 カメラなしの『人間の生体データ』だけを拾う装置だったか、写角の範囲外だったのかも。

 カインを見上げて、思わず笑ってしまった。


『When we die, there's no time for mourning. Just good morning, huh?

 お互い時間を無駄にするのはやめようぜ』


 俺達はどうせ悼む間も無く「おはよう」だろ、って言いたいらしい。くだらない。

 サムいジョークとホーンの音が、まるで格好つけてるように聞こえて腹が立つのと同時に笑えてくる。


 急に機銃の発砲音が響き、反射的に頭を下げた。


 着弾音は遠い。適当に掃討射撃をしているだけだと分かってはいても、息が詰まった。


『ちっと5分間休憩にするわ。生きてんなら早めに出てこいよ』


「クソ‥‥」


 頭を庇い身を伏せたまま呟いた。

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