1話 5 盾とわたしの間
スピーカーのハウリングが止んだ。
やり返してやりたいが、この状況ではどうしようもない。
今の私にできるのは、せいぜい地面か白い蒸気を睨みながら、1秒も早く味方の到着を祈るだけ。
怒鳴り返したくなる衝動をゆっくり飲み込んだ。そんなことをすれば蜂の巣だ。
それにこれも、行動パターンを取るための挑発‥‥かもしれないんだから。
「‥‥うちの支援機、あと何分で来ると思う?」
「援軍要請通信より3分46秒経過。最速で7分程度と推測」
「7分‥‥」
こんな状況で、あと7分も見えない射線に神経を尖らせてなきゃいけないのか。
霧の奥から発砲音が響いて、私たちを探すように着弾音が近付いてきた。
舌打ちが漏れる。
「‥‥まだ1分も経ってないのに」
カインが私の頭を低く押さえつけ、一歩前に出た。
そして、淡くライトブルーに揺らめく光の膜――エネルギーシールドが展開する。
新しいやつか、カイン専用だか知らないけど、こんな装備は初めて見る。
やがて、土や石が弾ける音がすぐそばまで迫ってきて、私は身を縮めた。
カインが斜めに構えた光の膜が、弾丸を受け流していく。
珍しくまともな技術開発部の仕事に感心しながら、私はこの景色に奇妙な既視感を覚えていた。
昔、こんな風に守られたことがあった。あの時は金属の盾だったけれど――
‥‥いや、思い出に浸っている場合じゃない。
おそらく霧が発するノイズのせいだろう。
弾を受けるたびに盾のハンドルに表示されているシールドの残量ゲージがみるみる減っていく。
防ぎ切れなかった弾丸がカインのボディに当たり、彼の身体が揺れた。
撃たれた本人は一言も音声を発しない。
反応が無いから、ダメージが入っているのかなんなのか分からない。
私の肩にかかった圧が、彼の受けたダメージの大きさを語っているようで、私のほうが息が詰まった。
彼は何事も無かったかのように立ち上がり、
一瞬私の頭をくしゃっと撫でた。
「! ‥‥どう、して、今の‥‥」
盾を構えた動きだけじゃない。
頭を撫でた仕草も、あの時の『あの人』と同じだった。
もう一度、目の前の機械にあの愛しい気配を探したけど、彼の立ち姿からそれは完全に消えていた。
幻覚でもいいから、もう少しだけでいいから、あの感覚に触れたかったのに。
頭を振って、自嘲混じりにため息をついて切り替える。
‥‥こんな状況で、こんな風に思うなんて。
それこそ質の低いジョイントの吸いすぎだ。
単に、私の髪についていたゴミを払ってくれただけかもしれない。
死ねない私の鉄のテディベア @noisemary
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