モノクロパレット

みずき九州

僕たちの理想

人はそれぞれ特徴がある。だから人間って面白いんだ。でもそれが理由で僕たちはなぜか、いがみ合うんだ。


「お前ん家って貧乏だよな。そんなボロい服来て学校来んなよ」

「あんたってマジで頭悪すぎ。そんなの猿でもわかるよ」


子供の頃からなにかしらとってつけて人をバカにする。それに歯向かって喧嘩に発展することもあれば、心を病んで引きこもったり、耐えきれなくなって自分で命を断つこともある。


「ごめん。僕が間違ってたよ」

「ごめんなさい、私が悪かったわ」


心が成長するにつれて人を小馬鹿にすることはなくなることが多い。けどそれは心が綺麗になったわけじゃない。


子どもの頃と違って、物事を考える時に大人は政治とか宗教とかそうしたものを複雑に絡み合って判断する。そしてその考え方は人それぞれ違っていて、その中には少なからず相反する考えを持つ人もいる。


「〇〇人は国から出ていけ!」

「異教徒を排除しろ!」


嫌いな人たちを仲間はずれにして、似たような人が集まって社会は築かれる。その社会の中はみんな似たもの同士だから争いは起きにくい。


ある社会から弾かれた人も、そのまま一人ぼっちなんてことはない。そういった人同士で集まって、最終的にそれぞれのコミュニティができる。


そうして平和なときがいつか訪れるかもしれない。けどいつかは社会にゆとりがなくなっていって、不満のはけ口を探すようになる。


「劣等人種を潰せ!」

「〇〇国を滅ぼせ!」


乱暴になった人たちは”不満のはけ口”を見つけると、そこを攻撃するようになる。そしてその戦いはどちらかの社会が消えるまで終わらない。やっと終わって平和が訪れたとしても、いつかはまた新しい争いを始めてしまう。


これが僕たち人類の、しくじり続けた歴史である。


本当はみんなわかっていたんだ。争いになんの意味もないってことに。だから何度も、何度も終わらせる努力を続けてきた。けど何十年、何百年、何千年が経っても、それを終わらせることなんてできなかった。


だから僕たちは考えた。どうしたら本当に争いをなくす方法を。そしてついにその計画は実行された。


ようこそ、モノクロティックワールドへ。ここはすべての人間が平等の世界。性別も、人種も、なにも考える必要がないんだ。


「こんにちは、A1Aさん」

「こんにちは、D2Bさん」


この世界ではすべてのものが等しく与えられる。ただし、一つだけ例外がある。それはこの番号だ。これは昔あった名前の代わりに、システムから与えられるものだ。


みんな同じ言語を話し、同じ服を着て、同じ食事をする。生まれてからずっとおなじことの繰り返しだ。


僕たちの考えた理想郷「モノクロティックワールド」には色はない。争いが起きる原因を考えた時、一つのものが思い浮かんだ。それは色鮮やかな個性だ。


様々な”色”をもった世界、それは楽しいものかもしれない。けどその”色”はみんなが楽しめるわけじゃない。その色を奪い合って、一部の人だけが楽しめる、そんな世界だったんだ。

だから僕たちはなくすことにした。すべての争いの原因である”色”を。


「わたしたちは幸せです。いつも幸せです」


繰り返し、自分が幸せって言い聞かせる。そうすると本当に幸せを感じ始めるんだ。そこに笑顔があるかはわからない。けどそれがいいんだ。


僕たちは”わからない”を重視している。”色”があるとなにを考えてるのか、なにを感じてるかがわかってしまう。逆に”色”がなければ、なにもわからなくなる。みんな自分と同じ考えをしてると思えるようになり、安心感と一体感を得られるんだ。


この考え方は正しかった。世界が一色になってからもう何十年も経つけど、争いごとは一切起きていない。みんなシステムから与えられたとおりに動いて、幸せを守っているんだ。


この世界も完璧ってわけじゃない。ときどき色がついた人が現れたりする。これはシステムのバグだ。もしバグを放置していると、まわりもどんどん色がついていき、争いごとが起きるようになってしまう。そんなときはシステムの自己修復機能を使って、バグをなくしていくんだ。


そんなある日、街でこんなことを言う人が現れた。「君たちの本当の名前はなに?」って。

そのときはいつものバグだと思ってすぐに”修正”したけど、今回はなにかが違ってたんだ。


それから毎日のように似たようなことを言う人が現れるようになった。ポスターを貼って抗議する人も現れた。


僕たちはバグを排除しようとした。けどなにかおかしなことに気づいたんだ。これって争いの始まりじゃないかって。


人々を落ち着かせようとしたけど、システムの間違いに気づき、冷静さを失った人たちはもう戻ることはできなかった。色が世界に戻り始め、また争いが起きるようになってしまった。


僕たちの理想郷「モノクロティックワールド」は”不安”のせいで滅びてしまった。僕たちの理想は間違ってなかった。けど完璧でもなかった。争いごとをなくすために、争いごとをしてしまってたんだ。それに気づいたら最後、元通りになってしまう。結局人間に争いは避けられないのかもしれない。


だから僕たちは争いを避けるんじゃなくて、適応する力が必要だったのかもしれない・・・

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