11.少年の最後3
私が目を覚ますと、朝の陽射しが私の目を貫き通した。私はその陽射を手で遮りながら体を起こした。私は寝間着を脱ぎ、仕事着に着替えた。その日の午前中、私は少年を追うべきか否か悩んだ。もし、少年に会ったとしたら、少年の未練に鳴ってしまわないだろうか。そんな葛藤の末、私は少年に会いに行くことにした。
私が少年の元に着いたのは夕暮れ時だった。少年の体は少し透けているぐらいで、まだ未練があるようだった。
「ここにいましたか。」
少年は振り返って、生きていた頃と変わらない笑顔を私に向けてくれた。
「貴方のおかげか、図書館から出てみようと思いまして、せっかくなのでバッサリ切ってみたんですよ。似合っていますか?」
私は少年に話しかけながら近づいた。潮風で少し髪が靡いた。
「そういえば、昨日は図書館を留守にしていてすみませんね。貴方の親御さんに呼ばれたものでして。遺書、読みましたよ。まさか私に対しても書いてくださるとは思いもしませんでしたよ。」
私は自分でも声が涙ぐんでいるのが分かった。
「虹宿魚が来るまで、少し話しませんか?」
私はそう言って少年の隣に座った。
「そういえば、この村の伝承について書かれた本、見たのですね?机の上に放置されているのを見た時は驚きましたよ。」
それを聞いた少年は
「すみません、片付けていなくて。あと、どうしてあんなものがあそこに在ったのですか?」
と、謝ってきた。少年はなんでも謝ってしまう癖があり、死後もそれが治せなかったことを、私は少し後悔している。死後ぐらいは、何にも謝らず、自分の好きなように過ごしていて欲しかった。私は、少しセンチメンタルになっていることを悟られぬように、少年の質問に答えた。
「あぁ、あそこに置いたの私なんです。伝承に書いてあった通り、この入江で死んだ人は死の覚悟が決まるまで死ねません。そして、貴方の死亡推定時刻が丁度、虹宿魚が現れる時間だったので、貴方の探究心があれば虹宿魚がどのような魚かしれなければ死ねないと思い、あそこに置きました。」
私は少年の心の色が驚きを表す赤橙色に染まったことから、図星なのだと分かった。
「それと、虹宿魚が何故、虹を宿しているかも見ましたね?」
そう私が聞くと、少年は静かに頷いた。私は少年としばらく他愛のない会話を交わした。少年の未練が残らないように、最後ぐらいは、心の色が幸せで満たされるように、なるべく面白い話をした。そのおかげか、体が透けていき、心の色も幸福を満たす
そんな時間を過ごしている内につきが空の頂点に昇ろうとしていた。
「もう、話せる時間が短くなってきましたね。図書館に毎日来てくださり、ありがとうございました。貴方のおかげで、私は図書館から踏み出す勇気をもらえて、貴方の最後をこうして、見届けられます。そして、親御さんからですが『愛してるよ。今まで気づいてあげられなくてごめんね。』、だそうです。」
私は空を見上げて泣きながらそう言った。少年の方に目をやると、少年も泣いていた。私は慌てて心の色を確認したが、そこには喜びを表す紅梅色で心が満たされていた。少年は、嬉し泣きをしていた。私は安心し、少年の声をかけた。
「もう、時間みたいですね。」
眼の前に虹宿魚がいる。静かに、少年の眼の前の海面に。
「いってらっしゃい。貴方と過ごした日々、楽しかったですよ。」
私は少年に手を振り、少年が虹宿魚から出た虹の橋を渡ルノを見送った。私はその後、数十分ほど、その場に留まった。成仏してから数十分間は、僅かな未練で戻ってこれてしまう。少年がそうならないように、私はその場に留まっていた。
数十分してから、私は図書館への帰路についた。潮風が、私の涙を乾かしてくれるように、なるべくゆったりとした足取りで図書館へ向かった。しかし、その日は涙が止まらず、図書館についても視界はぼやけたままだった。
私は今でもあの夜のことを思い出す。夜風に当てられ、月の光に照らされると、毎日のように後悔の念に囚われてしまう。若い命を救えなかったこと、死後にしか心が救えなかったこと、これらが今でも頭の中から離れない。少年は許してくれても、私は私がどうしても許せない。
そんなことを今日も考えながら、私は図書館を閉じた。
彩心(さいしん) ジャイキンマン @jaikinman
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