9.少年の最後
そんな、私の人生に豊な色彩を与えてくれた少年も、この世にもういない。少年が中学二年生の頃、少年は自殺した。
少年が自殺した日、その日の午後二時に差し掛かる前、少年が本を返しに来た。その時の少年の心の色は、無色透明だった。私はいつもと同じように振る舞ったが、明らかに動揺していたことを覚えている。その前日までは薄っすらではあったが、色が付いていた。それがいきなり無くなり、私は胸騒ぎを覚えた。そして、少年はいつもなら本を借りて帰るが、その日は何も借りずに帰ってしまった。
私は引き留めようとしたが、少年に限ってそんな変な気は起こさないだろうと驕ってしまった。そう、少年のことを何でも知っているような気分になってしまっていた。少年の、恋心にすら気づかなかったというのに。
少年が死んでから三日後に、少年の親御さんから電話がかかってきた。それは、少年が死んだという知らせと、少年が私に対して遺書を書いていたという内容だった。私はそれを聴いた時、永遠のような時間が流れた気がした。私はなんとか言葉を振り絞り、
「分かりました。まだ仕事が残っているので後日訪ねたのでもよろしいですか?」
と、返答した。少年の親御さんは快く了承してくれた。その後、私は住所と念の為に少年の死亡推定時刻を聞いて、電話を終えた。私の心はその時、濃紺色に染まっていただろう。
私は少年の探究心があれば、まだ魂だけの状態で彷徨っていると思い、伝承本を目につきやすいところに置いた。そして、その日は眠った。
翌朝、日がまだ登りきっていない時間帯に、私は図書館の扉を開けて少年の家に向かうことにした。
蝉の鳴き声が響く海岸沿いに、私一人だけが取り残されているような感覚で歩いていたような気がする。
聞いた住所に到着した私は、玄関のチャイムを押した。少し待つと、明らかに寝巻き姿の女性が玄関の扉を開けてくださった。そして女性は
「あの〜、どちら様で?」
と、聞いてきた。私はなるべく丁寧に
「初めまして。日高図書館の司書をしております、
と、答えた。そして、女性に案内されるまま私は家の中に入って行った。リビングに案内されると、女性はそのままの姿で
「朝早くから来ていただいてありがとうございます。それで遺書なのですが、」
と、話し始めようとした時、私は無礼を承知で言葉を遮り
「支度が終わってからで構いませんよ。」
と言って、支度をするように促した。女性は身だしなみを気にするだろうと思っての気遣いのつもりだったが、迷惑に鳴っていなかったら良かったが。
その後、支度を終えた女性と夫と思しき男性と私とで少年のことを話した。
私の知る少年のことを、いじめについても含めて話した。その話をしている最中、二人の心の色は己への強い怒りを表す暗紅色に染まっていた。おそらく、気づけなかったことや相談できないような人間だったことから来た感情だ。
最後に少年の遺書を手渡されて帰宅することにした。しかし、少年がもし生きているならばと考えた私は、
「息子さんへの伝言があればお伝えしますよ。」
と、聞いた。少し間をおいて心の色が無意識状態を表す薄緑色に染まった女性は口ょを開いて
「あいしてるよ、今まで気づいてあげられなくてごめんね。」
そう言った。私はその言葉を持っていたメモ帳に書き留め、家を後にした。
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