3.思わぬ収穫

 少年と出会った日の翌日、私はいつも通り読書をして時間を潰していた。その日は快晴で風が気持ちよかったこともあり、潮の香りが図書館に満ちていた。潮風を感じながらの読書は、この図書館に来てからの数少ない楽しみの一つだ。

 小説を二冊ほど読み終えた時にはすっかり昼時になっており、私は昼食を取ることにした。前任の司書によって、家のようにも使えるように改造された司書室に籠ってサンドイッチを食べていると

「おーい!司書さんいるか?」

 と、村長の声が聞こえた。私はサンドイッチをお皿の上に置いて図書館に戻った。

「すみません。昼ご飯を食べていたもので。」

 私は風呂敷を片手に持った村長の近くに向かった。

「そりゃあ邪魔したな。日を改めたほうがいいか?」

 村長は額に吹き出した汗を首にかけたタオルで拭いながら、私に聴いた。

「いえ、本日で大丈夫ですよ。あと、水を出すので少々お待ちください。」

 私はまた司書室に行き、氷水を持って図書館に戻った。村長の前の机に置き、私と村長は椅子に座った。

「ありがとな、それで用件なんだが、儂の家の蔵にこんな物があってな。」

 村長はそう言うと、持っていた風呂敷の中から数冊の本を出した。中には古文書らしきものも入っている。

「少し中身を見たが、この村の伝承について書かれているらしくてな。この図書館に寄贈することにした。儂が持っていても、どうしようもないからな。」

 村長は氷水を一気に飲み干した。

 私は数冊の本全てに軽く目を通した。

「書かれている内容は同じですが、使用されている言葉が違いますね。現代文から古文までありますよ。」

 私が村長にそう話すと、村長が

「これは儂の憶測だが、後世に残しやすいようにその時代に合った言葉に、歴代の村長が書き直していったんだろうな。」

 と、答えた。私は現代語で書かれた本だけを図書館に置き、残りは司書室で保管しておくことにした。

「いやぁ、すまんな。あの程度の量でも、持っておくとかさばるからな。引き取ってもらえて嬉しいよ。」

 村長はまた汗を拭っている。

「私としても、あの量の古文書はなかなか手に入らないので嬉しい収穫ですよ。」

 私も、持っていたハンカチで汗を拭った。

「にしても、この図書館にも空調をつけなきゃだな。読書の途中に熱中症だなんて、聞きたくねえからな。」

 村長は図書館を見回しながらそう言った。この図書館には空調機器が一切無い。あるのはせいぜい古く、小さな扇風機だけだ。空調機器が無いのには理由がある。図書館が増設するにあたって、空調機器を増やさなければならず、経費が今まで以上にかかってしまうからだ。

「それじゃ、儂もやることがあるでな。ここいらで御暇させてもらうとするよ。」

 村長はのっそり立ち上がり、図書館の外に向かった。

「お気をつけて。」

 私の声掛けに、村長は右手を振って答えた。

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