2.少年との出会い
私がいつも通り退屈に過ごしていたある日のことだった。あの少年が図書館に通い始めたのは。
あの少年が初めて図書館に来たあの夏、私は初めて心の色がない人間を見た。水らしきものもなく、空っぽな悲しい心。二十数年生きてきて初めての経験に、私は怖くなった。
その空っぽな心の持ち主に目を向けると、そこに居たのはランドセルを背負った小学生の少年だった。背丈を見ると小学校低学年のようだが、纏っている雰囲気なが妙に大人びていて中学生の様にも見える。少し肌が焼けた少年は、一冊のミステリー小説を持って机に座った。その姿は哀愁が漂っており、自殺を考えている人間のようにも見えた。
私は本を読む手を止めて少年を見ていた。未知との遭遇に胸を躍らしていたのかはたまた、未知との遭遇に恐怖していたのかは覚えていない。ただ、その少年に目を魅かれ続けていたことは覚えている。
それから少しして、少年が本を読む手を止めた。まじまじと見ていることがバレたのかと思った私は、咄嗟に本に顔を向けた。
少年が立ち上がり、こちらに近づいてくる。
「あの、ここが、解らなくて、お、教えて、ください。」
私は冷や汗を流したが、その言葉に安堵した。そして、私は少年に教えた後に読書に戻った。
人をまじまじと見るのはやはりやめたほうがいいなと心に刻みつつ読書をしていると、刺されるような視線を向けられている気がした。気のせいだと思い、再び読書に集中しても刺さるような視線を感じ続けた。気になった私はその視線の主を横目に見ると、少年が私をジッと見ていた。私は気づかないふりをして読書に戻った。数ページめくった時、少年が近づいて話しかけてきた。
「司書さん、明日も来ていいですか?」
「いいですよ。私はいつでも居ますから、いつ訪ねてきても開いてますよ。」
私が少年の質問にそう答えると、少年の心が一瞬、桃色で満たされた。しかし、すぐに消えてしまった。桃色は、恋心が芽生えた人に現れる心の色だ。私はまさかと思い、その日は見間違えと思って気にしなかった。
少年が帰った後、少年の心の色が透明なことについて二つの仮説を立てた。
一つ目は、私が見たこと無いだけで一般的なものだという説だ。しかし、それは二十数年生きてきて見たことがないので、最も可能性の低い説だ。
二つ目は、元々は色があったが消えてしまったという説だ。心の色は液体だ。器に穴が開けばそこから色が抜けていき、最終的には空っぽになる。おそらくこれが、一番可能性の高い説だ。
この仮説を立てるにあたって、もう一つ疑問が浮かんだ。心が空っぽになった理由は何だろうか。
私は考えても出てこないと思い、その日はもう寝ることにした。
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