第3話

彼は少し困ったような顔をしながら、それでもこう言った。


「……ついてきて」


その言葉に従って、彼の後ろを歩く。

広くて頼もしい背中。だけど、その背中はずっと無言のままだ。


——やっぱり、迷惑だったのかな。


何も言わずに歩く彼に、不安が募る。

でも、さっきの2人組の男たちに比べて、この人の背中は不思議と怖くなかった。


やがて彼が立ち止まって、ポツリと一言。


「あそこ」


指さす先に目をやると、きらきらと光るクレープ屋の看板。

ガラスケースの中には、SNSで見たのと同じ、生クリームがたっぷりの食品サンプルがずらりと並んでいた。


「わっ……!ありがとうございます!」


嬉しさが胸いっぱいに広がって、さっきまでの恐怖や不安が一瞬で吹き飛んだ。

お礼を言うのもそこそこに、お店の前の列に小走りで並ぶ。


幸い、それほど人は多くなかった。

10分も待たずに、念願のクレープを手にすることができた。

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