第5話
ここ数日、伶は絶え間なく努力を重ね、来たばかりの頃よりは随分良くなったとはいえ、まだ涙もろいのは相変わらずだ。
ルビィちゃんは私が良く休めたと判断し、おじさんたちと拾書に出るよう命じた。伶は女性だから危険だと考え、家で待っているように伝えた。
出かける時、伶は全力でこらえていたが、それでも涙がこぼれた。私は彼女の涙をぬぐいながら言った。
「伶、僕が帰るまで待ってて!」
ルビィちゃんのところに行って状況を聞いた後、外に出た。門の外では、熊兄、桐谷、鈴賀がもう待っていた。
彼らは、あのダークグレーの戦闘制服に着替え、エネルギーの紋様が刻まれた軽量の防護鎧を羽織り、腰や背中には用途こそ分からないが明らかに威圧感のある装備を数々携えていた。
熊兄は昨日の弁当箱よりさらに平たい金属の箱を手に提げ、桐谷は腰に下げた微かに青く冷たい光を放つエネルギーナイフの手入れをしており、鈴賀は掌の上に浮かび、回転しながら縮小地図を投射し続ける装置を調整していた。
「おい!ガキ!顔色が数日前よりマシだな!」
熊兄が口を開けて笑うと、白い歯が覗いた。その金属の箱を私に差し出しながら言った。
「ほれ!受け取れ!お前の拾書者初心者セットだ!」
箱は冷たく、重かった。開けてみると、中には彼らと同じデザインのダークグレーの基礎制服一式、薄くてエネルギー回路の施された胸当て、多機能リストバンド型情報端末(鈴賀のよりずっと簡素)、シンプルながらも切っ先が鋭く冷たい輝きを放つ合金の短刀、そして呼吸マスクが整然と収められていた。
「さっさと着替えろ!」
熊兄がせかした。
「今日はお前を『流放の地』の縁まで連れてってやる!本当のゴミ捨て場ってやつを見せてやる!ついでに…信用点に換えられるガラクタを拾ってこい!」
彼の口調は軽かったが、目つきには気づきにくいほどの厳しさが宿っていた。
私は素早く制服に着替えた。胸当ては体にぴたりとフィットし、皮膚の下を弱々しいエネルギー流が走るかのような奇妙な冷たさを伝えてきた。短刀を腰に差すと、金属の冷たさと硬さがずっしりと伝わり、呼吸マスクを顔に装着した。
「行くぞ!」
熊兄が大手を振るい、我々を連れて長いトンネルを歩き始めた。彼らの話では、これは街中を移動せずに直接都市の端まで行ける道らしい。
出口に近づくと明かりが見え、トンネルを抜けると周囲は廃墟だった。さらにしばらく歩くと、鋼鉄とエネルギーでできた高い壁が視界に現れた。
金属のシャッター門の前まで来ると、熊兄は掌を扉脇のくぼみに押し当てた。幽かな青い光が彼の掌紋と虹彩を走る。
「身分確認:拾書者小隊『グリズリー』、権限:三級。」
冷たい電子音声が響いた。
「任務目標:流放の地周縁地域(座標:X-7-イプシロン)、物語の残滓(ざんし)回収作業の実行。同行者:一時権限保有者『空塵』。」
「警告:目標地域空間安定度評価:低。骸(ムクロ)活動信号を検知:微弱。安全規定厳守のこと。」
「ゲート開放。」
重い金属のきしむ音がし、巨大なシャッターが両側へと滑り開いていった。
まったく異なる、強烈な衝撃を伴った空気が一気に流れ込んできた!
息が詰まるほど空気は薄く、金属の錆、エネルギー劣化、そして何か…甘ったるく腐ったような生臭い奇妙な匂いが混ざり合っている。
明るいが砂漠のように荒涼としており、遠くには歪んだ、淡い緑色や暗紫色の光を放つ壊れた残骸が、まるで鬼火のように果てしない土地に浮かんでいた。
ここが「流放の地」――骸の巣窟だ。
足元は堅固な大地ではなく、打ち砕かれた、無理矢理こね合わせられたような物質でできた「地面」だった――歪んだ金属パイプ、固まった砂利、半透明の結晶、さらに正体不明の巨大な生物の骨格の残骸さえもが…
それらは物理法則に反するような仕方で絡み合い、積み重なり、固まって、果てしなく続く、ごつごつと凶暴な「荒野」を形成していた。
「離れるな!落伍するな!」
熊兄の声がマスク内蔵の通信器越しに聞こえ、雑音が混じっていた。彼がその怪異なる「地面」に真っ先に足を踏み入れると、ガラスを踏み潰すような耳障りな音が響いた。
桐谷がすぐに続き、鋭い目で周囲の暗闇を窺っている。鈴賀は緊張しながら掌の地図投影を見つめ、そこには空間の歪みや微弱なエネルギー反応を示す赤い光点が絶えず点滅していた。
私は深く息を吸い込み(マスクが濾過しても空気は冷たく臭かった)、腰の短刀を握り締め、この死の荒野へと足を踏み入れた。
この砕けた大地を歩くのは一歩一歩が異常なほど困難だった。足元は様々な鋭く、不規則な破片だらけで、常に足の置き場に注意を払わねばならなかった。
重力もどうやら不安定で、時には歩くのも苦しいほど重く、時にはふわふわと浮かんでいるかのように軽かった。遠くから時折聞こえる金属の歪む音や、あるいは低くて意味不明な唸り声は、深淵からのため息のようだった。
「あの光るもの、見えたか?」
熊兄がすぐ近くのかすかに青く光る区域を指差した。
「それが『物語の残滓』だ!一つのはっきりと認識できる世界が完全に崩壊し消滅した後にも残った、骸に完全に食い尽くされていない情報結晶だ!運が良ければ、中には比較的完全な書が残っているかもしれん」
我々は注意深くその区域に近づいた。地面には大小さまざまな、割れたガラスの破片のような青い結晶が散らばっていて、かすかに、まるですぐにでも消えてしまいそうな光を放っていた。
幾つかの破片には、ぼんやりとした映像の一部が見える――ぼやけた笑顔、燃える森林、崩れ落ちる尖塔……それは消え去った世界の最後の反響だった。
「これらが俺たちの戦利品だ!」
熊兄はしゃがみ込み、手袋をはめた手で注意深く手のひらほどの比較的完全な青い結晶片を拾い上げ、彼が携帯する特製の、内部に安定した光の流れが通る金属収納箱にしまった。
「良ければいくらか信用点に変えられる。悪ければ、基本エネルギー素材としてリサイクルだ」
鈴賀は探知機のような装置を手に持ち、付近をスキャンしていた。
「熊兄!こっちのエネルギー反応の方が強いぞ!多分本があるかも!」
彼は興奮して叫んだ。桐谷は無言の彫像のように隊列の外れに立ち、周囲の渦巻く闇や、不気味な光を放つ骸を警戒して見張っていた。彼のエネルギーナイフは鞘から少し抜かれ、複雑な環境の中で青く冷たい輝きは警戒する狼の目のようだった。
ちょうど我々が微光を放つ破片を集めていると、全く予兆もなく、遠くで轟音が響いた!
流放の地のさらに奥深くで、三人の影が巨大な骸と戦っている。
彼らは図書館内で見かける柔らかな色調とは対照的な、流動する白金の光で編まれたかのような華麗な戦袍(せんぽう)を纏い、そこには複雑にして玄妙な符丁が流れていた。手に持つ武器もそれぞれ輝いていた。
彼らの体の周りは、目に見えない、息が詰まるほどの威圧を放っており、これほどの距離でも感じ取れた。
彼らは巨大な骸と戦い、すぐに骸を消滅させた。
「トランセンダー(越遷者)……」
熊兄の声が通信器を介して聞こえ、畏敬と羨望、そして深い自嘲が混ざった複雑な感情を帯びていた。
彼は即座に手を止め、遠くを見つめた。桐谷もナイフをしまい、直立した。鈴賀に至っては息を潜め、固唾を飲むようにその数名を凝視していた。
その三人は、骸を消滅させると、白い稲妻のように瞬間的に消え失せた。
彼らがいなくなってから、重くのしかかっていた空気がようやく少し和らいだ。
「あの旦那方に出会うたびに、自分が土の上の蟻に思えてならんわ……」
熊兄が(マスクの中で)唾を吐き捨て、無力感に満ちた口調で言った。
「熊兄…あの人たちは何なんだ…」
思わず尋ねずにはいられなかった。さっき神の業としか思えない骸の消滅は衝撃的すぎた。
「トランセンダー(越遷者)だ」
熊兄の声は低く、深い疲労がにじんでいた。
「図書館システムの中で…本当の頂点に立つ存在だ。奴らは空間跳躍のコア技術を掌握しており、あらゆる世界で、強大な覇王級の骸を追跡し、さらには…直接世界に介入し、面倒事を解決している」
彼は一瞬間を置き、口調はさらに苦味を増した。
「さっきの連中はまだ弱い方で、流放の地の奥深くで骸を消すことしかできん。強い奴は皆、他の世界に飛び出し骸を消しているんだ。俺たち拾書者のようなのは…奴らの目には多分、塵にも劣る存在だろうな」
「そ…それなら拾書者は…」
熊兄たちの埃と訳の分からない汚れにまみれた制服を見つめた。
「拾書者だと?」
熊兄は自嘲気味に笑った。その笑みは強い光の下でどこか哀れに見えた。
「図書館システムの中で最も低い職業だ。俺たちなんてのは最底辺の掃除人、ゴミ回収係だ」
彼は自身の胸当てにある三本の横線が交差する符丁のマークを指差した。
「これが見えるか?三級拾書者。これが俺たち三人が十数年も必死に働いてやっと手にした最高の位階だ!」
「三級…最高なのか?」
「ああ!拾書者は三級までしかない!」
熊兄は力強くうなずき、口調にはやりきれなさと抗いようのない無念さが混ざっていた。
「一級、新兵タマゴで、付いて歩くことしかできない。二級、流放の地の端に立ち入ることができるようになる。今の俺たちみたいにな。三級だ」
彼は胸当てを軽く叩いた。
「やっと少し奥深く、リスクの高い区域に入る申請ができ、価値のある物語の破片や完全な命の書を回収できる資格を得られる」
「じゃあ…どうやったらトランセンダーになれるんだ?」
思わず詰め寄るように尋ねた。
「トランセンダーに?」
熊兄は何か途方もない冗談を聞かされたかのような表情を浮かべ、傍らにいた桐谷もかすかに首を振った。鈴賀に至っては嘲笑を漏らした。
「小僧よ、トランセンダーが何だと思ってる?」
熊兄の声には残酷とも言える率直さが込められていた。
「あれは才能が必要なんだ、強大な力が必要なんだ!年功序列でとか、死に物狂いの労働で手に入るもんじゃない!俺たち拾書者は、死ぬまで働いても三級が関の山だ。あの大きな溝を飛び越えたいだって?」
彼はさっき骸が消滅した場所を指差した。
「奴らより強大な力を持つ奴で、なおかつ生き延びられる…それに加えて図書館最高評議会の変態じみた試験を突破できる…」
彼は首を振り、口調は絶望に満ちていた。
「十数年間、俺の知る限りの拾書者は数多いたが、三級に這い上がった者は皆、命知らずの強運な奴ばかりだった。大多数は拾書の最中に骸に殺された。トランセンダーになれた者は…ほぼ皆無に近い。それは泥の中を這いずり回る俺たちが望むようなものではない」
彼は腹立たしそうに足元の金属破片を蹴飛ばし、耳障りな軋む音を立てた。空気は一瞬重くなった。探知機が時折発するかすかな音と、遠く虚空から聞こえる意味不明の低いうなり声だけが響いていた。
「熊兄!状況発生!」
絶えず神経を尖らせていた鈴賀が突然低く叫び声を上げた。声はかすかな震えを帯びていた。
「エネルギー計測異常!そ…骸だ!高速で接近中!方向…真正面!距離…三百メートル!まだ詰めてくるぞ!」
「なんだって?!」
熊兄と桐谷は瞬間に体を硬直させた!熊兄が探知機を掴み取ると、画面の地図投影上に、ひとつの目に刺さる、絶えず点滅し跳ねる深紅色の光点が驚異的なスピードで我々の現在位置に迫っている!
「隠れろ!」
熊兄が低く怒鳴ると、私を巨大で歪んだ金属残骸の陰に押し倒した!桐谷と鈴賀も素早く遮蔽物の後ろに隠れた!
ちょうど隠れた瞬間、吐き気をもよおすような、腐敗した甘ったるい匂いと鉄錆が混ざり合った悪風が荒々しく吹き抜け、無数の爪でガラスを引っ掻くような、頭皮を痺れさせる鋭い甲高い叫び声が伴っていた!
前方に、歪んで言葉に表し難い輪郭が現れた。
固定された形がない!まるで絶えず蠢き、膨張し収縮する暗赤色の肉塊のようだった。
肉塊の中には折れた機械腕や半分の石像鬼の翼、さらには表情は極度の苦痛で歪み、凍りついたような人間の顔までが包み込まれている!
その顔は肉塊の中で浮かんでは沈み、口を無音で開閉させながら、永遠に続く悲鳴を発しているかのようだった!細長く腐った触手のような無数の闇影が肉塊から伸び、狂ったように舞い、先端には細かな牙を並べた口が裂け、空気中に漏れるエネルギーを貪欲に吸い込んでいた。
「『号哭骸(ごうこくむくろ)』だ!」
桐谷の声は刀のように冷たく、一抹の緊張感を帯びていた。
「二級脅威!高速!攻撃に精神的汚染を伴う!奴の『悲鳴』に気をつけろ!」
その言葉が終わらないうちに!
「ウオオオオオオオオンンン――ッ!!!」
その蠢く肉塊が形容しがたい、何千もの生霊が死ぬ前の絶望的な悲鳴を集めたかのような恐ろしい金切り声を発した!
その音は空気を介さず、直接鼓膜を貫き、脳髄の奥深くに突き刺さった!
言葉に表せないほどの悲しみ、恐怖、絶望といった感情が冷たい潮水のように瞬く間に私の意識を飲み込み錯覚に陥った!目の前には無数の断片的な光景が現れた――孤児院の冷たい鉄柵、診断書に書かれた衝撃的な赤文字、………。
心臓は冷たい手に強く握りつぶされるように激痛が走り、息が詰まるほどの苦痛が全身を襲った!
「心を死守しろ!」
熊兄の怒鳴り声が耳元で雷鳴のように炸裂した!彼は遮蔽物から飛び出すと、いつの間にか手にした粗野なデザインで銃口が不安定な赤く光るエネルギーの散弾銃を構えた!
「桐谷!制圧だ!鈴賀!コアの周波数を妨害しろ!」
「了解!」
桐谷の影は魑魅魍魎の如く素早く姿を現し、手にしたエネルギーナイフが青く冷たい弧を描きながら、肉塊の苦悶の表情を浮かべた顔面の目を目掛けて正確に刺し込んだ!
ナイフが刺さった瞬間、肉塊はさらに悲痛な叫び声を上げ、暗赤色のエネルギー流が血潮のように噴射した。
鈴賀は右往左往しながら探知機を操作して何らかの発射モードに切り替えると、耳障りな高周波の見えない音波が「号哭骸」に向かって猛然と発射された!
「ウォゥォウォオーッ?!」
その動作は明らかに鈍り、舞っていた触手に一時的な硬直が生じた。
「今だ!ガキ!よく見ておけ!」
熊兄が咆哮すると、手にした散弾銃が耳を劈く轟音を立てて火を噴いた!無数の小さなエネルギー球弾が凶暴な蜂の群れとなって、うごめく号哭骸の核心を目掛けて炸裂した!
「プチッ!プチッ!プチッ!」
暗赤色のゼリー状の物質が無数の穴を開けてはじけ飛び!内部に包まれていた破片が四方に飛散した!あの苦痛に歪んだ顔面からは無音の悲鳴が漏れ、瞬く間に粉々に粉砕された!
肉塊の全体像が激しく収縮し膨張し、爆発しそうな風船のようだった。
「下がれ!」
熊兄が私の腕を掴み、勢いよく後方に飛び退いた!
ほとんど同時刻に!
「ドッカ――ン!!!!」
暗赤色の肉塊が内部に向かって崩壊し、突き破られた膿疱の如く猛烈に爆発した!
無数の粘り気のある悪臭を放つ暗赤色の液体と細かい破片が暴雨の如く四方八方に飛び散り、飛散した液体は我々が先ほど隠れていた金属残骸にかかり、「ジュージュー」という腐蝕音を立て、鼻を刺す刺激臭を伴う白煙を噴き上げた!
爆発の衝撃波は我々を吹き飛ばし、冷たく硬い地面に重く叩きつけた。胸当ては激しく震動し、胸の奥に潜んでいた麻痺した痛みは一気に爆発し、喉の奥から再び慣れ親しんだ血の匂いが込み上げてきた。
煙がゆっくりと消えると、跡地には白煙を上げ、腐蝕されて穴だらけになった浅いクレーターと、活性を失った暗赤色の破片、そして歪んだ金属の残骸が散乱しているだけだった。
「ゲホッ…クソッ…二級でもこんだけ厄介かよ…」
熊兄が散弾銃に体を支えながら立ち上がると、血の混じった唾液を(マスクの内部で)吐き出し、彼の防護鎧は不快な粘液で塗れていた。鎧に内蔵されている微弱なエネルギーフィールドはゆっくりと消えていった。
桐谷は黙々とナイフに残る暗赤色の汚れを拭い落としていた。動きは相変わらず正確だったが、息遣いは明らかに荒くなっていた。鈴賀は顔面蒼白で地面にへたり込み、さっきの精神的攻撃で明らかに相当参っていた。
私は必死に起き上がった。胸は悶絶するほど痛み、さっきの絶望的な悲鳴は脳裏にまだこだましていた。
荒れ果てた戦場を見つめ、熊兄たちの疲れ切ったものの慣れっこな表情を見つめ、地上で輝きを失った「物語の残滓」の破片が爆発に巻き込まれて粉々になった様子を見つめながら…。
拾書者…これが拾書者の日常なんだ。すき間に潜り、怪物の牙の中で、消え去った世界の残骸を拾い、わずかな生存資金と引き換えに命を張っているのだ。
そしてトランセンダー…奴らは神の如く巨大な脅威を簡単に消し去り、ましてや我々がもがくゴミ捨て場など一瞥すらしない。
階級の溝は、この流放の地の虚空のように、深く底知れず、冷たく絶望的だった。
熊兄が歩いて来て、古傷だらけの大きな手を私の肩に重く置いた。
「見たか、小僧?」
彼は荒々しく息を切らし、マスクを介した声には嗄れが混ざっていた。
「これが俺たちの運命だ!どぶの中でもがき、こんな不快な化物と死闘を繰り広げる!僅かなガラクタを持ち帰って日々の糧を得るための!トランセンダーだと?はあ…奴らと俺たちとは別世界の住人だ!」
彼はかがみ込み、爆発の周辺部で、完全に破壊されていない微かな青い光を放つ「物語の残滓」のかけらを辛うじて掴み取り、汚れを丁寧に拭い落とすと金属箱の中へしまい込んだ。
「さあ!終了だ!」
彼は立ち上がると、再び静寂に包まれた荒原を見つめた。疲れ果て、麻痺した目つきだった。
「今日のこれっぽっちの『戦利品』では、エネルギー膏さえ数個も交換できやしない…ただ無駄に叩きのめされただけだ…」
戻る道すがら、空気はますます重かった。あの分厚い金属シャッターをくぐり、安全圏とされる通路へと戻ると、あの冷たく埃っぽい空気でさえ貴重に感じられた。
図書館の休憩室に戻ると、熊兄たちは黙々と装備を外し、鎧についた汚れを洗い流していた。誰も口を開かず、水が流れる音と荒い息遣いだけが聞こえる。
私は冷たい金属の壁にもたれながら、胸奥に続く鈍痛と喉の奥に残る血の匂いを感じていた。
さっきの短くも残酷な戦い、あの絶望的な絶叫、熊兄たちの疲弊してはいるが慣れきった目つき、そしてトランセンダーが神罰のように降臨し去ってった白い影…。
それらはすべて冷たい刻み刀のように、この世界への認識を私の心に刻み込んだ。
ここにはおとぎ話などない。あるのは冷たい現実、残酷な階級、そして流放の地の端で血と汗で残骸を拾い集める拾書者たちの卑小な姿だけだ。
そして私の「新生」は、まさにこの残酷な狭間に、始まったばかりだった。
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