第4話

長い間立ち尽くしていた。


三人の影が順に部屋に入ってきた。似たような服装――体に密着するダークグレーの一体化制服で、金属のようなツヤ消し質感を持ち、関節部分には流れるような補強構造が施され、非常に頑丈で引き締まって見える。


先頭に立っていたのは、先ほど山で私を拾った、声の荒っぽい男だ。がっしりした体格で、岩のように粗く硬質な顔立ちをしており、目の窪みが深く、顎には短く硬い無精髭が生えていた。彼はシンプルな白い箱を持っており、病院の弁当箱のようだった。


彼の後ろには、背の高い男と低い男がついてきていた。背の高い方は無表情で、鷹のように鋭い目つきが私を一瞥したが、そこには全く温かみがなかった。背の低い方は若く、まだ消えきらない落ち着きのなさを顔に浮かべ、好奇心に満ちた目で私の体を舐めるように見ていた。


三人とも、まるで戦場から帰ってきたかのような疲れた様子だった。


「おい、ガキ、目覚めたか?どうやら元気そうじゃねえか」


がっしりした男の、砂利を噛むような声がストレートに響く。彼は手に持った箱を私に差し出した。


「食え。管理官様のご命令だ。エネルギー補給に使え」


若い男が一歩前に詰め寄り、独特の好奇心あふれる口調で尋ねた。


「おい、お前!マジで死体から蘇ったのか?こんなの初めて見たぜ!」


彼の目はキラキラと輝き、珍しい展示物でも見ているようだった。


「俺は鈴賀(れいが)、使い走りと記録観測が担当だ。あの仏頂面が桐谷(きりや)、俺たちの切り込み隊長だ。親分は…」


彼は大男を顎でしゃくりながら言った。


「みんなクマ兄って呼んでる。お前は?」


「素夜空塵(すよら そらじ)」


私は低い声で答えた。喉は相変わらず渇いていた。視線は自然と白い箱へ向かう。


「あいつはほっとけ!」


クマ兄が大きな手で鈴賀の後頭部をパンッと叩いた(彼は大げさに「いててっ!」と叫んだ)。


「さっさと食え!食い終わったら本題だ!」


私は黙って箱を開けた。中には半透明のゲル状の物質が入っており、微かな草木の香りとほのかな甘みが漂っていたが、食欲をそそる見た目ではなかった。


だが、空腹の本能に駆られ、付属のスプーンですくって一口口に入れた。口当たりは微かに冷たく、滑らかで、溶けたゼリーのようだった。口の中でとろけると同時に、穏やかなエネルギーの暖流が急速に四肢に染み渡り、胸の奥の鈍い痛みさえ、わずかに和らいだ気がした。この物体……確かに効く。


「ここはどこですか?」


味気ないその物体を必死に飲み込みながら、私は再びこの最も基本的で核心的な質問を発した。


「隔世之境(かくせいのきょう)だ」


彼は簡潔に答えた。


「世界の外に存在する場所だ。外は『流放の地(るほうのち)』。隔世之境の中には様々な区域が分かれており、十二ある。例えばここ――終焉図書館(しゅうえんとしょかん)第十二区分館だ。『命の書(いのちのしょ)』を保存する場所だ」


「『命の書』……何ですか?」


「お前たち人間の人生は、誕生から終わりまで、記録、圧縮され、現実化されて一冊の本となる。我々は…」


そう答えたのは桐谷という背の高い痩せた男だった。彼の声には全く抑揚がなく、鋭い眼光が私に注がれた。彼は自分自身の胸当てにある、三本の交差した横線からなる簡潔な符丁のマークを指差した。


「拾書者(しゅうしょしゃ、Shūshosha)の責務は、様々な存在する、あるいは崩壊しつつある世界へ行き、それらの世界の人々の命の書を回収し、図書館に持ち帰って収蔵し、整理することだ」


「もし人の命の書が改変されると、その人は以前の世界に存在できなくなり、その世界も徐々に崩壊し、消滅する」


「ここはまるで…図書館?」


私は思わず呟き、周囲を見回した。


「似てる、そうでもない」


クマ兄が口を挟んだ。


「ここの本は…単なる記録ではない。魂の欠片や、感情の余韻を担っている。図書館は、これらの書物を守るためのものに過ぎない」


彼の口調はどこか深みを帯びていた。


「そして骸(むくろ)…まるで本を喰い荒らす害虫のようだ」


「骸…とは?」


喉のゲルが詰まったような気がした。ルビィちゃんが、強い警告とともにその言葉を口にしていた。


「骸」という言葉が出ると、クマ兄の表情は明らかに険しくなり、始終ぼんやりしていた鈴賀さえふざけた笑みを消した。桐谷は微動だにせずに体を硬直させ、右手が自然と腰に下げられたエネルギー短剣のような武器の柄に近づいた。


「災害だ」


クマ兄の声が沈み込み、言い表せないほどの嫌悪感を帯びていた。


「自然に様々な世界で生まれることも、強い苦痛、執念、未練、後悔…これらの負の感情の凝縮…あるいはお前のように、物語が非正常な手段で強引に歪められ、改竄されて…生み出されることもある。無形無質だ…普通の人間には全く見えず触れることもできない」


桐谷が冷たく言葉を続けた。


「普通の人間はそれらを見ることができない。世界の境界――『脊(せき)』と呼ばれるもの――によって隔離されている。骸は生き物の精気、感情、そして希望すらも吸い取って成長する。十分な力を蓄積すると、脊を突破しようと試み、災い(わざわい)を形成する」


「災い?」


この言葉に私は胸がドキリとし、寒気が走った。


「ああ」


クマ兄は重々しくうなずき、太い指関節が白くなるほど握りしめられた。


「お前が以前生きていたような世界では、骸が境界を突破した後、災いとなる…それはお前たちが言うところの『自然災害や人災』――大地震、火山噴火、壊滅的な洪水、何億人もの命を奪う疫病…さらには、全てを破壊しかねない戦争を引き起こすこともある」


鈴賀が小さい声で付け加えた。彼の口調には一抹の後悔めいたものが混じっていた。


「我々は影相(えいそう)で見たことがある、骸に完全に侵食、飲み込まれたいくつかの世界…中はまさに修羅場だった。皆が徐々に崩れ、死んでいき、残された命の書は世界の崩壊と共に消え去り、もうこの世界を覚えている者など誰もいなかった」


クマ兄は鈴賀を一睨みし、詳細を言いすぎて怖がらせないようにと合図した。しかし鈴賀の言葉は、私の心に十分に恐ろしいイメージを描き出していた。


「隔世之境…特に外縁の『流放の地』や一部の境界領域では」


クマ兄は説明を続けた。


「エネルギーが不安定だから、ここでは骸は…可視の実体になる!」


彼の口調には重い警告が込められていた。


「実体であるだけでなく、激しい攻撃性と貪欲な衝動を持つ。感知範囲に入った侵入者を徹底的に引き裂き、直接お前の命の書を攻撃し、噛み砕く」


「命の書が飲み込まれると、ゆっくりと消え始める。急いで取り戻さない限り、お前の物語は本当に消え去り、次第にお前の存在を覚えている者はいなくなるだろう」


図書館内の光さえ、この言葉のために薄暗くなったように感じられた。遠くの静かな書棚がさらに深い影を落とす。


「だが安心しろ」


クマ兄は語調を変え、息詰まるほどの重苦しさを少し和らげた。


「各区域には強力な防護障壁がある。骸は、特に強力な『覇王級』でない限り、普通は入ってこられない。それらの大半は『流放の地』の混乱した空間に閉じ込められ、互いに喰らい合い、あがいており、大した騒ぎも起こせない。都市の中は安全だ」


桐谷が傍らで低く言った。


「前提は、自分から外に出て死にに行かないことだ」


「大体…分かりました」


私は、すべての認識を覆すに足るこれらの情報を必死に消化していた。拾書者、図書館、骸、隔世之境、流放の地……


「あなた方も……行ってしまうんですか?」


クマ兄は一瞬ぽかんとし、すぐに大きく口を開け、少し荒っぽいが確かな笑みを浮かべた。


「当たり前だろ!任務が終わったら帰るさ、こんな場所に何をしに残るってんだ?」


彼は立ち上がり、肩を回すと、コキコキと音を立てた。


「俺の家には妻も子供もいる、熱々の麺汁(めんつゆ)が待ってるんだぜ!」


桐谷も直立した。相変わらず冷たい表情だが、目には極めて微かな温もりの影が一瞬走り、彼は私に向かってわずかにうなずいた。


「気をつけろ」


口調は相変わらず簡潔だった。鈴賀は少し名残惜しそうに私を見つめたが、それでも素早く空になった弁当箱を片づけ始めた。


「じゃあな、蘇った少年!次に物資を届けに来た時、まだ消えていないことを祈ってるぜ!」


彼はいたずらっぽくウインクした。どうやらクマ兄の警告は右の耳から左の耳だったようだ。


クマ兄は最後に私の肩をポンと叩いた(力が強く、胸の内臓が少し痛んだ)。


「小僧よ!何日か休め!体が安定するまでな!管理官様が必ずお前にやることを用意してくれる!こんな場所、遊んでる奴を飼う余裕なんてない!行くぞ!」


三人は素早く来て、あっさりと去っていった。鉄の扉が滑り開き、また静かに閉じた。外界の気配が遮断された。冷たい空虚感と沈黙が再びこの片隅を完全に包み込んだ。


「私は、ここに立つしかないのか?皆はいったいどこに行ったのだろう?」


「イヤー眠たーい…」


ぬいぐるみの山の奥から、すやすやとした、まだ幼さの残る寝ぼけた声が聞こえた。続いて、がさごそとした動く音がし、数体の人形が床に落ちる鈍い音がした。


しばらくして、目をこすりながらルビィちゃんが現れた。


彼女の大きな紺碧の瞳は、まだ眠さが残るぼんやりとした様子で、私を上から下まで一通り見ると、うんうんと何かしら分かったかのようにうなずいた!


「よーし、よーし!『初回接触』発動条件に適合してるね!」


彼女はつま先立ちし、やっとの思いでキャビネットの上にある小さな水晶のボタンに腕を伸ばし、「プチッ」と力を込めて押した。


同時に、広間の片側の滑らかな壁が無音でスリットを開き、一人がやっと通れるほどの奥深い通路が現れた。通路の内壁には柔らかな微光が流れていた。


「こっちだよ、そらじ!」


ルビィちゃんは小さな手を腰に当て、興奮した表情で、先にピョンピョンと跳ねて通路に飛び込んだ。


通路は短く、その先は突然開け、広間よりは少し小さいが、同様に広々とした部屋だった。


十人の少女が部屋の中に立っていた。


揃いのメイド服を着ていた――純黒を基調とし、細かく繊細な銀色の縁取りで飾られ、襟元と袖口には清楚な白いレースフリルがついている。


色とりどりの髪、彼女たちは両手を組み合せて重ねて胸の前で、しかし何の表情も見せていなかった。


人工体(アーティフェックス・ホミニス Artifex Hominis)。ルビィちゃんがさっき軽く口にしていた言葉だ。


「ジャンジャカジャーン!」


ルビィちゃんが少女たちのそばに飛び移り、小さな手でその列を興奮してひと振りした。


「見て!私たちの貴重な『新入居者』――つまり君のために!ルビィちゃんが申請した『生活サービスコーディネート』――簡単に言うと、君専属のメイドさん!」


彼女は一人の少女の前に飛び出し、小さな指を伸ばして、遠慮なく相手の滑らかで冷たい頬をつついた。その少女はまばたき一つせず、完璧な姿勢を保ったままだった。


「心配いらないよ!」


ルビィちゃんは私の目の中の不快感と困惑を読み取ったかのように、小さな手をさっと振った。


「彼女たちは生身の人間じゃないの!感情の揺れはとても安定してるの。彼女たちのコアドライバーはただ一つ――対象個体(つまり君)の区域内的な生存指標を安定させ、清掃、整理、基本的栄養補給、生理データのモニタリング…とにかく、すごく便利で手がかからないの!」


彼女は自慢げにしっぽの先をピンと立てた。


「1番から10番まで、好きなのを選んで!みんな同じくらい便利よ!あっ、そうだね、彼女たちには自分たちの認識番号があるけど、好きな名前をつけてもいいんだよ!名前は彼女たちにとって識別記号に過ぎないからね!」


少し感じが悪いのでは?


私はあの十枚の無表情な顔を見た。冷たく、効率的で、全く温もりのない「ケア」は何に似ているだろう?福祉院で決められた量の食事を配る自動機械にそっくりだった。


期待もなければ、失望もない。


私の視線が最後の一人に注がれた瞬間、あの虚ろな瞳の奥が、極めて短く、極めてかすかに……揺らめいた?


静かな氷の湖の下をかすかに横切る細かな波紋のようだった。


私は思わず彼女を指した。


「その…」


呼び方すらしばし分からなかった。


「10番」


ルビィちゃんの声が背中越しに響いた。かすかに異様なものを感じさせる。


振り返ると、ルビィちゃんがいつしか少女たちの前に歩いてきて、幼い小さな顔を上げて、私が選んだあの姿を眉をひそめて見つめていた。


彼女の淡いピンク色の眉は珍しく寄せられ、小さな口はわずかにとがり、困りながら不満げな表情を浮かべている。


「えー……なんで彼女なんだ?」


彼女は声を潜めて呟き、尻尾も元気をなくして垂れ下がっていた。


「こいつ、ちょっと『故障』があるんだよな……」


彼女の声は低く、まるで独り言のようだった。


「故障?」


私は不思議にルビィちゃんを見た。彼女は腕組みをし、猫耳もだらりと下がり、少し悔しそうだった。


「うん!彼女の感情……なんか……ちょっと……安定してないんだ」


「特にすぐ泣く!」


まるでルビィちゃんの言葉を証明するかのように、彼女の「泣く」という言葉が終わった瞬間――あの揺るぎない瞳の中に、極めてはっきりと、静かに濃密な水分が立ち込めた!


朝露がガラスに結露するように、速やかに集合し、大きくなり、重さに耐えられなくなったのか、音もなくこぼれ落ちた!


一滴の透明で冷たい涙が、彼女の滑らかで磁器のような白い頬を伝い、あごで一瞬止まり、そして同じく塵一つない純黒の制服の襟に滴り落ち、小さな濃いシミを残した。


少女はそっと嗚咽した。


周りの他の九人の人工体は相変わらず微動だにしない。


ルビィちゃんは小さな鼻をひくひくさせて首を何度も振った。


「見たろ!すごく変なんだ!理由もなく泣いちゃうんだよ。前の臨時ユーザーたちみんな彼女が面倒で、誰も彼女を選ばなかった……」


「でも君が彼女を選んだなら……うん……彼女に決まり!前もって言っておくけど、文句言わないでよね!」


私は整然と並ぶ中で一人涙する少女を見た。


あの無音の泣き声は、一振りの冷たいノミのように、胸中に深く刻まれたあのすでに感覚を失った古傷を軽く叩いた。


施設で一人隅に縮こまる姿…周囲の避けられる視線を浴びている「問題児」…自分自身。


「大丈夫、彼女でいいです」


私の声は大きくはなかったが、この冷たい空間にくっきりと響き渡った。


「彼女に決めました」


少女は私の声に本能的な反応を示したようだ。彼女の水気を含んだ両目が微かに震え、その視線が私を「見ている」ようだった。そして――


ポトッ!


涙がまた一粒、静かに転げ落ちた。


ルビィちゃんが手を振ると、他の少女たちは消え去った。彼女はこの操作を終えて、振り返って去ろうとした。


私は少女の前に歩いた。彼女は標準的な人工体よりもさらに華奢に見えた。涙でいっぱいの両目がライトの下でかすかに、水筋を含んだきらめきを放っていた。


「伶(れい)」


私は彼女を見つめ、できるだけ声を穏やかに落ち着かせようとした。


「伶と呼ぼう」


ルビィちゃんが振り出した足が一瞬止まり、猫耳がピクッと動いた。


「伶?…その名前…結構可愛いんじゃない?…もういいや!」


彼女は手を振り払った、まるでくっついてきた子猫を追い払うように。


「よしよし!彼女は君に任せた!泣いてたら拭いてね!お腹が減ったら自分で言って!彼女が何とかしてくれる!あ、そうだ!」


彼女は何か大事なことを忘れていたかのように、ぐいっと振り返った。先ほどまで不満げだった小さな顔に突然、すごく明るく、少し神秘的な笑みが浮かんだ。


「一番大事なこと、忘れるところだった!」


ルビィちゃんは小さな手を腰に当て、小さな胸を張り、宣言するかのように真剣な表情を見せた。


「ルビィちゃん!終焉図書館第十二区分館最高管理官の権限をもって!ここに新規ユーザーそらじに警告――本区域基本安全プロトコル第三条を厳守せよ:絶対に、絶対に、どうか、永遠に――彼女に過度な刺激を与えてはいけない、これは非常に重要だ!聞こえたか?」


彼女は突然近づき、疑いの余地のない、ルールにも等しい圧力をかけてきた。


「これは最下層のコアロジックに書き込まれた制限コマンドなんだ!違反すると…ルビィちゃんも何が起きるか分からないほど恐ろしいことが起きるかもね!」


そう言うと、彼女はこの警告に非常に満足した様子で、さっきまでの真剣な表情を一瞬で収め、だらしなく、ぼんやりとした様子に戻った。


「あは……ルビィちゃん疲れちゃった……戻ってお昼寝するね……」


言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼女の小さな姿はふらつきながら姿を消した。


残されたのは私と伶だけだった。


私は黙って伶を見た。彼女も私を見つめ、整った顔に二筋の涙が絶えず、静かに流れ落ちている。


決して止まない、無音の雨のようだった。


私は手を伸ばして彼女の涙をそっと拭い、小さく言った。


「伶、家に帰ろう!」


彼女ははっとして、うなずいた。私たちは、私に割り当てられた住まいに戻った。


朝七時の陽が、窓辺の緑豊かなポトスに遮られながらも、なんとかしてオークのフローリングに幾筋もの輝く光の斑点を塗っていた。


建物全体は依然として、停滞するような静寂に包まれており、遠くのキッチンから時折かすかな食器がぶつかる音が一二と聞こえるだけだった。


その平穏の中に、異様にはっきりとした割れる音が炸裂した。


「ガシャンッ、ジャーッ!」


金属と磁器が激しい戦いを演じているような音が、寝室のすぐ外の廊下から聞こえ、耳障りに鮮明だった。


続いて、温かく、甘い匂いのする液体が噴き出して床に飛び散る鈍い音、その後また何か重いものがごろりと転がる重い音が響いた。


私は即座に目を覚まし、薄い布団を蹴ってベッドから降り、ドアを開けた――


目の前の光景は無残としか言いようがなかった。


伶が、ほとんど固まってしまったような動きで、朝の光の中に硬直して立っていた。


足元には、本来美味しい朝食を乗せているはずだった銀のトレイが完全にひっくり返っており、カップや皿、茶碗が粉々になって辺り一面に散らばり、不気味な細かな光のきらめきを放っていた。


茶色の温かいココアは熱い川のように、光る床を奔放に流れ、同様にひっくり返った黄色いスクランブルエッグの上に広がり、小さくて精巧なクロワッサンにまで染み出した。


伶の前髪は汗で濡れたかのようにツヤやかなこめかみに張り付き、幾筋かはがれた柔らかなもみあげが首筋に貼り付いて微かに震えていた。


彼女の濃い色のメイドエプロンの裾には、茶色の飲み物と黄色い卵液がしたたり落ち、染みとなっていた。


小さな手のひらには、さっきトレイが急に抜けた時に金属の縁に強く擦れた赤く腫れた跡が幾筋か残っていた。


彼女の顔は青白く、目元だけが雪のような白さの中で一際赤く染まっていた。


褐色の両目は涙に潤んでおり、唇は激しく震え、喉では


「ごっ…ごめんなっ…」


という言葉が永遠に完全に発声できないかのように繰り返されていた。


「ご…主人様!」


彼女はようやくかすかな声を絞り出し、無様に地面の惨状を片付けようと身をかがめたが、腕の震えは激しく、スカートの裾がさらに広くココアの沼地を掃いてしまった。


「動かないで!」


私はすぐに声を上げて止めた。彼女が無駄に割れたお椀のかけらを拾おうとした時、白く細い指は明らかにその緊張に耐え切れず、ひどく震えていた。


突然の動きで指先が鋭い青磁(せいじ)の破片をかすめ、一筋の鮮やかな赤が即座に流れ、散らかった床に落ちた。


彼女は思わず冷たい息を吸い込み、さっきよりもさらに慌てて手を引っ込め、ただただその小さな傷を見つめ、血が切れた真珠のように一滴、また一滴と…指先を赤く染めていった。


「傷の手当てをして!」


私は声をできるだけ柔らかくした。


「ここは私が片付けるから」


「私っ…私っ…」


伶は床にある自分の鮮やかな赤を見つめ、また恐る恐る私を上げ、目に浮かぶ霧がついに堤防を越え、溜め込んだ涙が無音で狂ったように溢れ出した。


彼女は突然深くお辞儀をし、ほとんどみすぼらしく適当に一礼すると、お詫びの言葉も嗚咽で砕け、くるっと背を向けると走り去り、細身の後姿が慌てて廊下の角に消えた。


その無音で落ち延びるように逃げた背中は、完全に驚き散った蝶のようで、粉々の羽の映像だけを残した。


廊下は再び死のような静けさを取り戻し、ただ一箇所の小さな血の跡が、ココアと卵液の泥濘で鮮やかな赤で咲いていた。


甘く焦げ臭い空気は瞬く間にもっと重い当惑に満たされ、無辜の太陽光が割れた陶片に差し込み、冷たい微光を反射した。


微かなすすり泣く声が切れ切れに、しかししつこくキッチンの方から響いてきた。


嗚咽は必死に押さえ込まれ、喉の奥に封じ込められ、まるで気をつけなければ土砂降りを招きかねないが、砕けた最後の音はそこで収まらない激しい感情の高まりを露呈していた。


私はリビングを片付け、キッチンの様子を見に行った。


室内の光はいくぶん薄暗かった。伶はリビングに背を向け、痩せた体を冷たい白いタイルの壁面にぴったりとくっつけ、額を壁につけ、内側に縮こまるような姿勢を取っていた。


小さな背中は抑えきれないすすり泣きで微かに震えていた。湯沸かし器が大量に開かれ、水音がサーッと音を立て、泣き声の大部分を覆い隠す一方で、その小さく密閉された空間をより孤独に感じさせた。


水は流しの中に置かれた彼女の手を洗い流し、血痕は薄まり洗い流されたが、指先の小さくめくれた肉の傷は依然として目立っており、頑なに淡い赤みを帯び、ライトの下で鮮明に見えた。


「伶」


私の声はとても小さく、その震える小さな生き物を驚かせたくなかった。


伶は電流に打たれたかのようにぴくりと背を向け、顔には恥ずかしい涙の跡が走っていた。慌てふためいた深い罪悪感が両目で轟然とぶつかり、嵐を吹き飛ばした。涙が再び堰を切って溢れ出した。


「主…主人様……ごめんなさい!本当にごめんなさい……」


彼女はてんでに水浸しの手の甲で顔の涙をぬぐおうとし、逆にみすぼらしくぬめっと広がらせたままにし、声は全くかれたすすり泣きに飲み込まれていた。


「私っ…私っ……すぐにきれいにします……」


彼女はそう言うと外へ駆け出そうとした。もはや私と目を合わせる勇気すらなく、一秒でも長くいれば大きな罪になるかのようだった。


私は細い通路を遮るように一歩横に踏み出し、声をさらに優しくした。


「傷の手当てが大事だ。ここはもう片付けた」


この言葉が彼女の心の中のあふれる堰を開くかのように、伶の動きは急に止まり、肩は一気に落ちた。彼女は深々とうつむき、涙を大粒でぬれた手の甲に叩きつけ、声は形をなさないほど砕けた。


「な…なぜですか?」


「な…なぜ私じゃなく他の誰も選んでくれなかったんですか?他の誰か…本当に安定してるし、きっぱりしてるのに」


声は弱々しいまま自己否定を続けていた。


「それなのに私は…私はあなたに一杯のお茶すらこぼすんです」


彼女はかすれた声で叫び、涙がまた滑り落ちた。


「好きだからさ!」


私はきれいなハンカチを取り出し、彼女の涙を拭き取り、声は優しくも断固としていた。


「涙を拭いて、顔を洗い、それからまた頑張ろう!」


私の目が再びキッチンの方を向いた。まるで朝の光にまたもやこすり直されたかのように開けていた。


「ファイト、必ずできるから!」


伶はハンカチをぎゅっと握りしめ、深く息を吸い込んだ。両目は潤みつつも、涙がまた落ちた。私はまた彼女の涙を拭いた。


彼女は背を向け、顔にはまだ小さな水滴が光り、薄明かりの中できらめいていた。


「ハイ、主人様!」


その声には必死に押し込めてもなお存在するすすり泣きの残響が確かにあったが、その勇気はすでにはっきりと聞こえていた。


嵐に極限まで押しつぶされた後、ようやく必死に背筋を伸ばそうとする小さな苗木のように、雨上がりの第一筋の陽光を迎えるようだった。


私は彼女の後ろ、半歩の距離に立ち、疑いという嵐の中をようやく必死に這い出た小さな船を無言で守っていた。


朝の光が次第に明るさを増し、廊下の窓を貫き、長いオークの床を惜しみなく満たし、伶の細いけれど徐々に真っ直ぐになる背筋を前に投げかけて、新しく生まれた輪郭のはっきりした影を残した。


「ゆっくりでいいんだ。誰の成長にも時間が必要だから」


私は彼女の後ろ姿を見つめながら、小さな声でそう言った。

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