第3話

秋の気配が深まり、瞬く間に初冬となった。


朝方、枯れ葉がくるくると渦を巻いて冷たい窓ガラスに叩きつけられ、細かい軋(きし)む音を立てていた。


冷え込みの深まりは、まるで無形の手のように、身体の奥に潜んでいたネジをそっと締め付けるかのようだった。


あの慣れ親しんだ喉の奥の刺すような痒みは頻度を増し、それを抑え込むのにかかる時間はますます長くなった。まるで潮の満ち干のように、頑なに堤防を乗り越えていく。


胸の奥底から時折襲う鈍い痛みと、原因もなく突然訪れる微熱は、冷たい蔦(つた)のように、静かに絡み付いてきた。


しかし、もっと胸を締め付けられるのは、家の中での出来事だった。


父が命のように大切にしていた古い懐中時計が、ある静かな午後に、完全に、そして静かに主発条が弾けてしまったのだ。


茶の湯沸かす音だけが微かに響くリビングで、その音はとりわけ耳障りに響いた——「カーリ!」という乾いた断裂音、続くはずみ時計の針が急に、しかし突如として止まった振動、そして最終的な死の静けさ。


父は、自分のアームチェアに座り、手に持ったピンセットで、塵ほどの大きさの軸先を歯車に戻そうとしていた。突然の発条の弾ける音で、彼の動きは一瞬固まった。私と母は思わず父を見た。


父は掌の中で動きを止めた懐中時計を俯いてじっと見つめ、長い間動かなかった。


卓上スタンドの灯りが彼のうつむいた、いっそう老け込んだ横顔の輪郭を描き出した。その瞬間、息が詰まるような悲しみと無力感の重みが、彼を取り巻く濃厚な夕闇のように漂った。


彼の白髪交じりの頭は灯りの中で微かに銀色に光った。彼はゆっくりと、非常にゆっくりともう一方の手を上げて、ベルトについた存在しない皺を直そうとした。


かつて器用で安定していたその手は、今や上げる際に、手首から指関節にかけて、制御不能の、微かだが激しい震えを見せているのがはっきりとわかった。ピンセットを使う時に見た震えよりもはるかに大きかった。まるで目に見えない電流が走っているかのようだった!


彼は指をぎゅっと閉じて懐中時計を握り締めようとした。指関節に力が入って白くなったが、まるで全身の力を振り絞って無意味な抵抗をしているようだった。


数秒の沈黙の後、彼はついに力を出し尽くしたかのように、張り詰めた肩ががっくりと落ちた。震える手も重たく膝の上に落ち、わずかに丸まった。それはまるで翼を折った小鳥のようだった。


彼は目を閉じ、再び開いた時、目に隠しようもない疲労と、濃厚に溶けきれない後悔、そしてある…扉が閉ざされたことを悟ったような寂しさが浮かんでいた。


何も言わず、彼はただ発条の切れた懐中時計を中ポケットにしまい、心臓のすぐそばにしっかりとしまった。


その日、夕食の空気は異常に静かだった。小遥も空気の異常な重さを感じ取ったのか、静かにご飯を食べていた。大きな目をぱちぱちとさせて、こっそりと父と私を交互に見ていた。


灯りの下、父が箸を持つ手は依然として肉眼でもわかる震えを伴い、ポテトサラダを摘むだけでもひどく難儀そうだった。母は見て見ぬふりをしているようだった。それでも小遥にお椀を優しく取ってやり続けているが、料理をよそる手は明らかに半拍遅かった。


この重さ、この語りかけられることもない生命の終わりを知らせる警鐘が、私にとっては最後の一押しとなった。


夜、私は自分の部屋に鍵をかけた。枕元の小さなランプが鈍い黄色い微光を放っている。


机の上には、端がほつれていて鉄のように冷たく硬い「最後の宣告書」——冷たい結論が書かれた末期診断書が、まるで無言の墓石のように灯りの下に置かれている。


私の時間はもうあまり残されていない。それは龍之介以外に他の誰にも伝えられなかった。両親にも知らせてはいない。


隣には、いくつか走り書きで計算された紙が散らばっている。さまざまな可能性のある治療法に必要な天文学的な数字が列記され、無数の鎖のように私をしっかり縛り、深淵へと引きずり込もうとしている。


そして引き出しの一番奥には、擦り減ったバスケットモチーフのチャームがひっそりと横たわり、隣には公園での集合写真があった。


写真の中で父はまだあんなに嬉しそうに笑っている。母の手が自然に私の肩に置かれている。小遥は陽光をまぶしそうに目を細め、口元にアイスクリームが少し付いている。


家族の笑顔が今では焼けた烙印のように、私の心と肺腑を焼き尽くす。


もう引き伸ばすことはできない。この思いは冷たく鋭い。まるで巨大な石が湖底に沈んでいくようで、あらゆる逃げ道への微かな望みを打ち砕いた。


私はもはやこの重苦しい影の発信源であってはいけない。


ある荒唐無稽な計画が、絶望の冷たさの中で形になり始めた。私は終わりが必要だった。自然に見える、家族ができるだけ苦しまずに済む終わりが必要だった。


「山での遭難事故」——それは残酷だが、おそらくはっきりとした終止符だった。


嘘は砂糖衣に包まれた毒だが、他に選択肢はなかった。少なくとも、私が完全に去ってしまう前に、彼らが平和な日常の幻想を保てるようにするために。たとえその幻想が、蝋燭の炎のように儚く脆いものだとしても。


翌朝、窓の外の空は鉛のように冷たい灰色だった。


私は深く息を吸い込み、既に用意してあったバックパックを背中に担いだ。その中には擦り減ったバスケットモチーフのチャーム、陽光の中で輝くあの家族写真、冷たい診断書、そしてわずかな非常食が入っている。


これは私自身が選んだ、終焉への持ち物だった。喉の奥がまたうずき始める。強く唾を飲み込み、押し殺した。


ドアを押し開けると、食堂からの温かい光と食べ物の香りが顔に当たった。母は朝食の皿を運びながら台所から出てきて、私を見つけると一瞬呆気に取られた。


「息子?こんなに早く出かけるの?外は冷え込んだよ」


「うん」


声をできる限り平常通り、むしろ幾分軽く聞こえるように努めた。


「今日…龍之介と山のあたりを歩きに行くことになってて。彼が最近野営訓練に凝っててさ」


この言い訳はばかげていたが、黒沢の「中二病」気質を考えれば、ほんのわずかながらも理にかなっているように思えた。


「たぶん…遅くなるかも」


父は食卓に座り、まだ朝刊を手に持っていた。新聞を置き、老眼鏡の奥から温かい目を上げて私を見つめた。その目には私が理解できない様々なものが込められていた——ほのかな心配と気遣いが感じられた。彼の指が新聞の端を軽くたたいた、動きには鈍さと硬さが伴っていた。


「山…か」


彼はその言葉を反芻するように言った。声は低く落ち着いていて、まるで秋の深い湖の水のようだった。


「…冷え込む。山道は滑るぞ」


間を置き、ゆっくりと最も単純な思いやりの言葉を紡いだが、それは私の胸に重く響いた。


「…気をつけろよ」


「大丈夫だよ、父さん」


彼の目を直視する勇気がなかった。うつむいて靴紐を結んだ。玄関の冷たい床が寒気を伝えてくる。


「お兄ちゃん!待って!」


小遥が可愛い毛布のようなパジャマを着て小ウサギのように寝室から飛び出してきた。手には昨日描き終わらなかった絵をしっかり握りしめている。


「絵!お兄ちゃんにあげる!」


絵を私の手に押し付けた。紙にはしわがよっていた。どうやら夜、布団の中で描いたようだ。背の高い人と小さな人が手を繋ぎ、星形の花が咲き乱れる道を歩いている様子が描かれている。背の高い「お兄ちゃん」の頭の上に、彼女は歪みながらも誇張された明るい黄色の太陽を描いていた。


「お兄ちゃん…早く帰ってきてね!太陽と一緒に!」


彼女は小さな顔を上げ、目は澄んだ無垢な依存と期待で光っていた。あの小さな太陽と彼女の信頼に満ちた眼差しは、心の最も柔らかな部分に針のように刺さった。


「うん」


喉が詰まり、声が出そうになかった。ただ強く彼女の柔らかな頭を撫で、その粗削りではあるが貴重な絵を注意深く折りたたみ、肌身離さずポケットにしまった。その絵が少しの温かさでも吸い取ってくれはしないかと願って。


「お兄ちゃん…すぐ帰ってくるから」


この約束が口から出ると、それは嘘になった。血の匂いが混じった言葉が喉に詰まり、吐きそうなほど苦かった。


「行ってくる」


家のドアを押し開けると、身を切るような北風が刃のように喉と肺腑に流れ込んできた!体はほとんど吹き抜けそうになった。寒気が一瞬で四肢を席巻し、意外にも体内の熱くうごめく違和感を押さえつけてくれた。


私は最後に一度振り返った——母は父の隣に立ち、眼差しは優しく私を包んでいた。父の手がそっと母の腕に添えられ、それは一種の言葉に表せない支えのように見えた。小遥がドア枠にもたれ、小さな手を振っている。


そして私は固く決心して、身をかえし、屋外の凍てつく灰色の世界に足を踏み入れ、冷たい風に、私の背後にある最後の虚ろな暖色が飲み込まれるに任せた。


周到に企てられた、己をも欺く別れに向かって歩き始めた。


郊外の荒れ山へと続く細い山道は、すでに冬の寒気にすっかり蝕まれていた。


両側の木々は丸裸になり、ねじ曲がった幹が無数の絶望した枯れ木の手のように空へと伸びていた。


枯れた草原は地面に伏したままで、吹きすさぶ冷たい風の中で、涙声のような、絶え間ないサラサラという悲鳴をあげていた。


空気は実体を持つ氷柱のように鋭く冷たく、息を吸うたびに無数の微細な氷の針が気管の奥深くに鋭く刺さり、鋭い引き裂くような痛みをもたらした。


冷たい空気が肺腑へと流れ込み、五臓六腑を凍らせるかのようだった。


「げっ…げほ…げほげほっ!!!」


激痛がついに我慢の限界を超えた。


私は突然、見えない巨大なハンマーで背中を叩かれたかのように身をかがめ、激しい咳が制御不能なふいごのように爆発した!


この時ばかりは、どんなに拳を口に押し当てても、胸の奥底から猛烈に噴き上がってくる熱い灼熱の奔流を抑えきれなかった!喉は鉄臭い甘い味で完全にふさがった!


「ぶっっ——げほっ!!」


どす黒い温かい粘り気のある液体が一度に咳とともに冷たい白い地面に激しくはね飛んだ!


鮮烈な暗紅色が瞬く間に枯れた草の根の間に染み込み、滲んでいった。それはまるで奇怪で痛ましい花が咲いたようだった!


濃厚な鉄錆の臭いが冷たい空気の中に急速に広がった。


額に瞬間的に細かな冷や汗が噴き出し、寒風に奪われていくわずかな体温と相まって、骨の髄まで凍るような寒さが毛穴一つ一つから侵入してきた。


冷汗は登山の熱によるものではなかった。身体が内部から崩壊し始めた時の死に近い哀鳴だった。


脳裏は真っ白になり、両脚は今や凝固したセメントのように重く、一歩前に踏み出そうとするたびに膝関節が軋む悲鳴を上げ、今にも砕け散りそうだった。


目の前の世界は揺らぎ始め、視界は急速にぼやけた。山の岩は奇怪な怪物の輪郭に歪み、枯れ木は揺らめきながら不気味な亡霊の姿になった。


止まれない。絶対にここで倒れてはいけない。私は力を込めて舌を噛んだ。鋭い痛みがか細い意識を一瞬もたらした。


歩き続けなければ、もっと深い誰もいないところへ、すべてが「単なる事故」に見える場所へ行かねばならない。


これが…私が彼らのためにできる…最後のわがままとも言える、わずかなことかもしれない。


風の音が耳元で鋭くうなりを上げている。ついに、何枚もの巨大な、風化して端が鋭利な黒い岩で半ば囲まれた天然の窪地で、私は最後の力を使い果たした。


背中が冷たく粗い岩の表面にぶつかり、体は岩に寄りかかりながら滑り落ち、枯れた草くずで覆われた地面にへたり込んだ。


地面の冷気が瞬時に衣類を貫き、骨の髄まで刺した。しかし不思議なことに、この骨の髄まで凍る寒さは、胸の中で狂うように燃えさかる灼熱の痛みを部分的に麻痺させ、まるで解放されたかのような感覚すら与えた。


背負っていたリュックサックが横に滑り落ちた。私は激しく荒い息を吐いた。吸う息は破れたふいごのように過酷で、吐く息は喉の奥から震える痰の音を伴った。


言うことをきかずに震えている手で、やっとの思いでリュックサックのファスナーを開け、中のものを探った。


冷たいプラスチックケースが指先に触れた——それはあの家族写真のケースだった。


私はそれを取り出し、まるで最後の救命索を掴むかのように強く、ぎゅっと手のひらに握りしめた。


写真の陽光がわずかな温もりを残しているかのように、冷たいフィルム越しに指先に伝わってきた。


写真の中の養父母の目は純粋な喜びに満ちており、留まることのない愛が時間を越えて私を照らしているようだった。小遥は私の腕の中で寄り添い、花開く蕾のように微笑んでいる。彼らに囲まれたその「私」の笑顔は、まるで決して影を経験したことがないかのように輝いていた。


抑えきれない酸味が一気に目頭にこみ上げてきた!熱い液体が激しくあふれ出し、瞬時に視界がかすんだ!熱い涙が冷たい写真フィルムに滴り、蛇行する水痕を残した。


ごめんなさい…お父さん…お母さん…小遥…


声にならない悔恨が、血の泡と砕けた嗚咽とともに、灼熱の喉をかき分けて絞り出された。


ほんとうに…ごめんなさい…


彼らは私に世界を与えてくれた——一番美味しい食べ物、一番温かい港、一番我慢強い待ち時間、一切の制限のない愛…孤児院の長い灰色の時間に刻まれたすべての空虚を満たし、この平凡ではあるが千鈞(せんきん)にも等しい幸福を与えてくれた。


しかし、私は彼らに何を返してきた?


私が返したのは、嘘だ!隠し続けた事実だ!そしてこの逃れられない絶望だ!永遠の別れと埋められない心の傷だ!果てしなく広がる闇だ!


「うっ…うわああ——!!!」


胸の中に渦巻く罪悪感、悲しみ、肉体の激痛がついに決壊点に達した!激しいむせ込みと抑えきれない嘔吐感が狂ったように噴出した!


「ぶほっ——!げえっ…!」


暗紅色の、温かい液体が砕けた血塊と混じって再び噴き出し、胸元を染め、その大事な写真の端にも飛び散った!


心臓を引き裂くような痛みが胸全体を貫いた!視界に残っていた最後の明瞭さが、果てしのない闇と歪んだ渦に一瞬で飲み込まれた!


体内の温かさはあふれ出る洪水のように急速に失われていった。心臓は絶望の冷気に包まれ、次第に遅く、重くなっていった…鼓動のたびに壊れそうなほどの苦痛を伴って…


(父さん…母さん…小遥…ごめんなさい…ほんとうに…ごめんなさい…)


意識が沈み込む最後の渦の中で、過去の断片が灯籠の光のように走馬灯のように駆け抜けた:孤児院の冷たい鉄格子の隙間…養父母が初めて私に差し伸べた温かい手…小遥が初めて私にお兄ちゃんと呼んだ時の甘い笑顔…灯りの下で震えていた父の手…言いかけてやめた母の心配そうな眼差し…龍之介が太陽の光の中であの「秘宝」である壊れた缶を高々と掲げ、何も考えずに大笑いしている様子…


最後に留まったのは、果てしない悔しさと破滅願望に満ちた一つの質問だった。


(もし…あの時…あなたたちがあの冷たい孤児院の門の前で立ち止まらなかったなら!)


(もしあなたたちの目が…隅で影にうずくまり、小さな野獣のように傷だらけで警戒しているあの子に向けられなかったなら!)


(もしあなたたちの心が…誰の関心も引かないあの子のことでわずかな間でも柔らかくならなかったなら…あの汚れた小さな手を握らずに…私をあの冷たい牢獄から家へ連れて帰らなかったなら…)


(もしも…もしもあなたたちの物語の中に…素風空塵という名のキャラクターが一度も登場しなかったなら…どんなに良かったことか!——!!!)


(そうすれば…この詰め込みの悪く、ただ苦しみだけをもたらす厄介者がいなくなるとき…あなたたちはこの身を切り裂くような痛みを経験せずに済んだだろうか?安らかに、幸福を保ちながら、安定した美しい人生を続けられただろうか?無数の普通の家庭のように?)


(もし変えられたら…もし消し去れたら…もし本当に…本当に変えられたら…どんなに…)


(それなら…本当に…良かったのに…)


意識は完全に途絶え、冷たく、果てしなく、重力もない深淵へと落下した。


何も感じなくなった…ただ無辺無際の、息が詰まるような虚無だけが残った。


骨の髄まで凍りつくような麻痺感が、かすかに残存する意識の断片を包み込んでいた。まるで永遠に続く氷の海の深淵に浮かんでいるようだった。


…音…がする?


非常に微かな音…分厚い氷の層を隔てて聞こえてくる…途切れ途切れではっきりとは聞き取れない…


「おい…起きろ…」


幻聴か? 冥界の境のささやきか?


「おい…」


微かだが確かな暖かな流れが…この冷たい闇に近づこうとしている…


いや…あるいは引っ張る力かもしれない…


目…巨石を乗せているかのように重い…どれほどの時間が経ったのか…目がようやく…非常にゆっくりと、困難を極めてわずかに、かすかに開かれた。


まばゆいほどの白い光の輪が一瞬で視界すべてを占めた!ぼやける…揺れる…まぶしい光の中で、いくつかのおぼろげな大きな輪郭をかろうじて描き出せる。


彼らは吹雪が吹き荒れる窪地(くぼち)の中に立ち、陰鬱な空を背景に逆光になって、影絵のようだった。


質感がわからない、非常にシンプルでシャープな濃灰色の服を着て、線は簡潔で整っており、余分な装飾はない。


裾は冷たい風の中でもまったく揺れ動かず、まるで目に見えない障壁に囲まれているかのようだった。


「うむ、小僧、相当根性あるな。やっと目を覚ましたようだな」


一番手前に立った影からやや荒っぽい声が響いた。口調は冷たく、感情の波立ちすら感じさせず、ごく普通の事実を述べているかのようだった。


「余計な力は無駄だ。立て。ついてこい」


もう一人の影が簡潔に命令した。容赦はなかった。訛りが不思議で、どこか判別しがたい地域の冷たい口調だった。


冷たい…硬直している…身体は朽ちた操り人形のようだ。


「早く動け!」


また別の、もう少し若く、やや焦った声が促した。


私は岩に寄りかかりながら、わずかに残る力を使って、少しずつ、苦労しながら麻痺しかけた、ほとんど感覚を失った身体を支え起こした。


一歩一歩、まるで鋭い刃の先を踏んでいるかのようだった。よろめきながら、あの沈黙して前進する影たちの後について歩いた。


吹雪が顔面を打ち付けるが、もはや刺すような寒さではなく、麻痺した知覚の下で鈍い感覚に過ぎなかった。胸の奥に広がる虚ろな感覚と持続する鈍い痛みだけが存在を思い知らせた。


雪の中をどれほど歩いたのかわからない。


突然!


前方の空間が何の前触れもなく激しく歪んだ!まるで目に見えない巨大な手が凍りついた空気を無理矢理引き裂いたかのように!


不規則なギザギザとした縁の、巨大で凶暴な裂け目が、風変わりな形をした奇妙な岩の上に空中に現れた!端が黒い稲妻のように四方に蔓延していき、通り過ぎると光さえも粗野に歪め変形していった!


裂け目の内側は空虚ではなかった!光だった!留まることを知らず、定義不能な、純粋で眩(まぶ)しい七彩の光が流れていた!まるで宇宙が生まれ出る混沌の原初の色彩を強引に束縛し圧縮したかのようだった!


その光は圧倒的な威厳を持ち、瞬く間に半径数十メートルの空間を支配した。雪で覆われた枯れた草、深灰色の冷たい岩、頭上にある重苦しい鉛色の空さえも、すべてが一瞬にして粗野に変化する不思議な光で塗りつぶされた!


空間全体がめまいを誘う、物理法則が打ち破られたような奇妙な光景を呈している!


その巨大な裂け目はまるで生命を持つかのように、ゆっくりと…ゆっくりと拡大していった!


内部の七彩の光の流れは粘り気のある溶岩のように狂おしく渦巻いた!裂け目が約二人の高さにまで広がると!


突然、奔流していた七彩の炎はすべて内向きに崩れ落ちた!光の流れは狂ったように回転し、圧縮され、凝縮されていった!時間はその瞬間、引き延ばされた!次の瞬間——!


一瞬で鮮烈で明確な輪郭が浮かび上がった!


扉だった!


純粋な光と何とも名付けがたいエネルギーからなる、巨大な縦長の楕円形の扉!炎は扉枠の中で、極度に束縛された液体太陽のように、沸き立ち、咆哮し、声なき彩色された光の激浪を怒らせていた!


無限の吸い込みと空間が引き裂かれる耳障りな振動音が扉の中から荒れ狂って押し寄せてきた!


まばゆい光に思わず手で目を覆いながらも、私の目はその扉に釘付けにされた!


それは荒涼とした雪原と奇妙な色彩の嵐の間に立ちはだかり、壮麗でありながらも荒唐無稽に映った。


「行くぞ!」


先ほど声を出した影が短く叫んだ。


私は最後に…本能で…全身の力を使って…必死に…首を動かした…振り返った。蒼茫(そうぼう)とした吹雪が視界を遮った。


家の方角は灰色の山々に幾重にも重なり遮られ、ただぼんやりとした景色しか残っていなかった。


そこに…私の…太陽が……


そして、目に見えない力に引っ張られるように、絶望に押し出された最後の賭けのように、意識が完全に消える直前に消えた最後の思考の瞬間、私の足は制御できないまま、七彩の光の海を吹き出すあの扉に向かって…踏み出していった!


光と色彩が知覚の中で炸裂した!寒さ、苦しみ、記憶…すべてが一瞬で荒れ狂う奔流によって引き裂かれ、洗い流され、押し流された…


完全な…闇が訪れた。


意識は漆黒の深海の底にある泥のように、冷たく、重く、息を詰まらせた。


長い間もがいた後、ようやく微かな光が闇を突き破った。音はなく、触覚もなく、ただ巨大な空間が反響するような不思議な空虚感だけが全身を包んでいる。


身体は軽く、まるで重さも境界も失ってしまったかのようだ。これが…死後の世界か?


「…うん…起きた?」


幼く、少しぼんやりした子供の声が、予告なく虚ろの中に響いた。まるで死水に投げ込まれた小石のようだった。


重い瞼(まぶた)を精一杯に押し開く。飛び込んでくる光景に、かすかに残る混乱した意識は一瞬にして固まった。


伝説の聖堂もなければ、不気味な冥府もない。


目に飛び込んできたのは、一つの…目眩(めまい)を覚えるほど広大な眺めだった。


巨大なドームは高く、永遠に続くかのようだった。深灰色の岩肌に無数の細かい、柔らかい銀白色の光を放つ水晶がはめ込まれ、空間を涼やかな月夜のように照らしていた。


「ふーっ」


かすかな響きが前方から届いた。


私はやっとの思いで硬直した首を前に向けようとした。


目の前には、色とりどりで、まるで綿菓子の雲のように柔らかな…巨大なぬいぐるみの山が積んであった。


テディベアやキリン、にっこり笑うカボチャの人形…様々なサイズや形のぬいぐるみがでたらめに重ねられ、乱雑ながらも不思議な要塞を築いていた。


その時、この要塞の頂上から、ふわふわした頭が飛び出てきた。


桜色のツインテールがいたずらっぽいキツネの尾のようにぬいぐるみの山の上に突き出て、毛先に付いたレース縁の小さなポンポンが軽やかに揺れていた。


次に、小さな体が手足を器用に使って「よいしょよいしょ」と這い出てきた。


まるで繊細に彫り上げられた人形のように小柄で可愛らしい。真っ白なロココ風ドレス、ふんわりとした小さな白いパフスリーブが蓮の節のように見える腕を飾って、白いタイツが細い足を包み、丸みを帯びた小さな黒い革靴はぴかぴかに磨かれ、くるぶしに下げられた金色の小さな鈴は彼女が立ち上がると微かに揺れたが、音は鳴らなかった。


しかし最も目を引いたのは、彼女の頭に高く立った、ふわふわの猫耳だった。耳の先端には同じく薄いピンクの毛が生えていて、今まさ器用にピクッと動いている。白いしっぽが彼女の背後でゆっくり左右に揺れていた。


彼女はあるぬいぐるみの横に立った時、その身長はぬいぐるみの胸の高さにしか届かなかった。滑らかで上品な顔は赤ちゃん特有の丸みを帯びていて、頬は桜色に染まっていた。小さな鼻が微かに揺れ、紺碧(こんぺき)の瞳はまるで星空の銀河を宿した湖のようで、澄み切って透き通っていた。


その目が今、私をじっと見つめていて、隠すことのない好奇心と、まだ完全には払拭されていない眠気を帯びていた。


「うーーん!ようやく起きたね?ずっとずっと寝てたね、ルビーちゃんがスイーツを待ってる時間より長かったよ!」


彼女は小さな手で眠そうな目をこすり、唇を尖らせて愚痴を言う。その声は溶けかけの飴のように甘く、女の子特有の柔らかな響きがありながらも、まるで耳元で話しかけられているかのように明瞭だった。


「こっちが…どこ?」


喉は乾燥し、砂紙で擦れたように声はかすれ、弱々しかった。


「ここは第七世界(だいななせかい)第12区分!終焉図書館(しゅうえんとしょかん)第12分館だよ!」


彼女は小さな胸を張って、世界で一番素晴らしい場所を紹介するかのように誇らしげに宣言した。そのしっぽも得意げに弧を描いて跳ねた。


続けて、何かを思いついたように、ピンクの小さな顔をしかめ、不満げな表情を見せた。


「そうそう!あなたのせいだよ!」


彼女の小さな足が、厚い絨毯の敷かれた床を不満げに踏み鳴らした。ぷくっと膨れた可愛らしい頬が特徴的だった。


「ルビーちゃんはちょうど楽しい昼寝の後のおやつの時間を満喫してるところだったのに!プリンをたったの三口しか食べてないんだよ!チョ~おいしいマンゴープリンなのに!そこにまたしてもあのうるさいおっさんたちからの連絡が来ちゃったの!何か問題が起こったって!ルビーちゃんのプリンが……ああ!」


彼女は大げさに、まるで小さな大人のように深いため息をつくと、スイーツを失ったことの「巨大な」悲しみと睡眠を妨げられた恨みをにじませた。


彼女は紺碧の大きな目を閉じ、二つの小さな手でこめかみをマッサージし、眉を強くひそめて大人が悩む様子を真似た。


「ルビーちゃん、チョ~頭が痛いよ!あなた、ルビーちゃんをチョ~悩ませたんだからね!」


パチン!


彼女が指を鳴らした。


軽やかで泡がはじけるような細かい音(ぷぷぷ~)と共に、柔らかい光を放つ、薄くて透けそうな巨大な書頁が突然目の前の空間に音もなく広がった。


書頁の端は微かに虹色の光彩を放っている。


ページに書かれているのはもはや伝統的な文字ではなく、無数のぼやけて流れる映像、まるで無声の光と影の記録のように、非常に速い速度で私の目の前を駆け巡った。


灰色の、冷たく、錆びきった鉄格子(強烈な抑圧感が一瞬で喉を締めつけた)…何枚かのかすかで優しい顔(母の温かい笑顔、父の穏やかな眼差し)…小さなツインテールを結んで、クレヨンの跡がついている小さな女の子が手を振っている(小遥の笑顔)…荒涼とした山の小道…狂風に巻き上げられる枯れ草…そして私が冷たい岩壁の下で丸まり、胸を血で染め、闇へと意識が落ちていく最後の光景に静止した。


「ほら!見て!」ルビーちゃんが小さな指で最後に静止した映像を指さした。彼女の指先が触れた部分が瞬時に七彩の光彩を伴う波紋を広げた。


「あなたの物語はここで終わったの!ルビーちゃんはすごく真剣に『回収済み』ってハンコ押したんだからね!」


彼女は顎をわずかに上げ、「僕は仕事をきっちりやったんだ」という小さな自慢が込められていた。


しかし次の瞬間、彼女の口調は急に高くなった。赤ん坊のような声に濃厚な困惑と明らかな不快感が満ちていた。


「でもね!」


彼女の眉がかわいいハの字に皺を寄せ、口もとげたんになった。小さな手が無意識に桜色の髪の一束をくるくると丸めていた。


「ルビーちゃんがようやくプリンの悲しみを忘れて、気持ちよくお昼寝をしてるっていうのに!あの間抜けだけど仕事は確かなおじさんたちから、急にガチャガチャ連絡が来たの!」


彼女は連絡が急に届く様子をまねて口真似をする。


「ブンブン!ピッピッ!ほら、それで言うんだ!問題が起こったって!」


ここで彼女の表情が突然真剣に変わった。その幼い顔に真剣な表情を合わせると、不思議なギャップ萌えを感じさせた。彼女は小さな背筋を伸ばし、私をまっすぐ見つめ、紺碧の瞳に不思議な光が輝いていた。


「彼らが言ったの——あなたの物語ノートは変更されたって!」


空気が一瞬固まったように感じられた。


「変…わった?」


私の意識はその未知の言葉をやっとの思いで捉えようとした。喉は乾いて傷み、まるで砂利でこすられたようだった。


「そうなの!」ルビーちゃんは力強く小さな頭を縦に振った。猫耳も一緒にぴくっと動いた。


「ちゃんと『終章』にスタンプ押してるのに!『死んだ』ってオフラインになってるのも間違いないのに!でもね!間もなく!」


彼女の声はまた八度音程上がった。


「あなたの物語ノートの後ろに、なんと——ひょっこり!新しいページがたくさんできてて、復活してるし、願いも叶っちゃったんだよ。」


彼女は小さな手を大げさに動かして本のページが突然出てくる動作をまね、眼差しには困惑が満ちていた。


「これって!チョーおかしーーい!」


彼女は一語一語をはっきりと強調した。一つ一つの音をしっかり発音し、ピンクの頬は興奮で再びほんのり膨らんだ。


「ルビーちゃん、終焉図書館で管理員をしてこんなに長いけど!こんなに不思議なこと、始めてだよ!死んで、物語は終わったってのに、また復活しちゃうなんて!」


彼女は語っているうちに、再びふくれっ面になり、一種の仕方ない、公事公判といった表情になった。


「それに!」


口調は少し本気を帯びていた。


「もっと困ったのは、骸(ガイ)がいなくなっちゃったから、お前さんにとって、チョ~危ないんだぞ!彼らに遭遇したら、お前さんすぐに食いちぎられちゃうかもよ!骨のカケラすら残らないわ!」


「それでね、」


彼女は小さな両手を広げて、結論を述べるポーズを取り、最後に長いため息をついた。


「ルビーちゃんは寝不足の頭で、本を拾うおっさんたちにお前さんを連れて帰るのを許可したんだよ!だってお前さん、もう元いた世界にいられなくなったからさ!わかった?そういうことなの!」


彼女の長い説明がようやく一区切りつき、最後の「わかった?」にはほっとした安堵が込められていた。


「……ってことは……」


喉はひび割れそうに乾き、私は必死に声を絞り出した。一つ一つの言葉が引き裂かれるようなかすれ声を伴った。


「俺は…本当に死んだのか…?あの…あの願いは…かなったのか?彼らは…本当に…俺のことを…忘れたのか?」


ルビーちゃんの紺碧の猫目が潤んで、瞳の中の困惑は一瞬で好奇心に取って代わられた。


彼女は小さな頭をかしげ、猫耳が器用にピクッと動き、本当に私の質問を考えているように見えた。


そのふさふさしたしっぽも一緒に好奇心旺盛に左右に揺れた。彼女はピンクの小さな指を噛みながら、「うん…うん…」と真剣に軽く唸った。


(……彼らは……忘れてくれたのか?願いが叶ったのか?)


「えっ?」ルビーちゃんの猫耳がこっくりと揺れた。「そこの細かいところは…よく見てないな…」


「だから結論!」ルビーちゃんは突然、小さな手を高く上げて朗らかに宣言した。「わからない!」


彼女は再び顎を上げて、小さな胸を張った。


「でもね!ルビーちゃんは確かなことだけをちゃんと教えられちゃう管理員だから!後ろにはちゃんと新しいページが増えたってことは!願いが叶ったってことは!間違いないってことだよ!」


彼女は私を見つめ、「ね?」と明るい目をパチパチさせ、満足げに自分のしっぽをそっと揺らした。


良かった!身体が激しい喜びの下で押さえきれずに震え始めた。


「おいおいおい!壊れたバイブみたいに震えるなよ!」


ルビーちゃんは即座に私の異変に気づいた。


「心配ないよ!怖がらないで!」


彼女は小さな足取りで近づき、爪先立ちになって、小さな掌を精一杯伸ばして私の頭を撫でようとした——しかしその高さは明らかに私の肩にすら届かない。


「高すぎるよ!」


彼女は不満そうに呟き、頬を膨らませた。しかしすぐに行動に移った。


「届かない…それならこうしちゃう!」


彼女の紺碧の目はキラキラと輝き、負けん気に満ちていた。彼女は精一杯に跳び始めた。一回、二回と、ピンクのツインテールと猫耳が空中で可愛く跳ねた。


何度か跳ねた後、やっと少し高い所に手が届いた。彼女の小さく、温かく柔らかい掌が、ようやく私のもつれた髪にそっと触れた。


その感触は柔らかく温かく、不思議な癒しの力を帯びていた。


「よしよし~」


彼女は小さな動物をなだめるような甘ったるい声で言いながら、小さな手でぎこちなく、まるで猫を撫でるように私の髪をくしゃくしゃと撫で回した。乱暴ながらも善意に満ちていた。


「ここはすごく安全だよ!ルビーちゃんが守ってあげる!ルビーちゃんは12区のチョ~最高責任者だからね!」


彼女の慰めは下手くそだったが、とても誠実だった。


「さてさて!基本説明おしまい!」ルビーちゃんは大仕事を成し遂げたように手を叩き、再び元気いっぱいの笑顔を見せた。


「つまり!君はここでゆっくり休んで養…あっ、まあ、とにかくここにいればいい!何かわかんないことがあれば、あの本を拾うおじさんたちに聞いてね…」


彼女の言葉が終わらないうちに、非常に大きくて可愛らしいあくびの音が突然彼女を遮った。


「はああぁぁ~~~~」


彼女の目は瞬時に濃い水気を帯び、慌てて小さな手で口を押さえたが、そのだらしない眠気は押さえきれず、猫耳は柔らかく垂れ下がり、しっぽも力なくたれていた。


「ああ…もうだめだめ…話すのって…チョ~疲れる…」彼女は既に濃厚な鼻声で、蜜糖に包まれた睡眠の呪文のようだった。


「ルビーちゃんは…パワーチャージに戻るわ…」


彼女は背を向け、眠たげに巨大なぬいぐるみの山へよろよろと歩き始めた。足取りは少しふらついていた。「覚えておいて…無闇にうろつかないでね…さもないと…面倒くさいことになるよ…」


最後に彼女は姿を消した。


私は呆然とそこに立っていた。めまいが再び押し寄せてきた。


私の物語は、どうやらまだ終わってはいないようだった。

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