第2話 因縁の対決!ネビュラ・シエルVSクロウ・ザ・ナイト

 世界には、闇がある。

 秘密組織ネビュロス愛知支部は人々を支配し、闇の帝国を築き上げようと日々暗躍している!(*週休2日・各種手当完備・福利厚生充実)


 そして、闇を打ち倒さんとする光がある!

 魔法少女連合愛知拠点は日々、人々のために奮闘している!!!

(アットホームな職場ですetc.)


 また、人々はなにも闇に震えているわけではない。

 闇と光の闘争の手助けのため素早く動画配信し、応援を通して魔法少女たちを助けている!

(初見さん大歓迎、きみの応援が魔法少女の助けになる)


 この物語は、闇と光と人々による闘いの日々を描いた物語である!


 ~愛知県名古屋市某所バトルステージ~


「クロウ・ザ・ナイトさん、本日はよろしくお願いします」

 ステージにいるスタッフが今回の怪人に挨拶をした


「オウ!よろしくな!

 おっ!俺のサイン入りTシャツ着てくれてるじゃねぇか、嬉しいねぇ」

 怪人は気持ちのいい挨拶を返した


「ええ!この仕事とクロウさんに出会えて本当に感謝ですよ!

 …こほん、クロウさんの本日の対決相手は赤の魔法少女だと連絡をもらってます」

「あいつかー、なかなかハードな戦いになりそうだぜ」

「実は私、お二人の対決の大ファンでして、今からもう楽しみですよ」

 片手で頭を搔きながら、とても明るい笑顔で会話する


「そう言ってもらえると、怪人冥利に尽きるってもんだ…

 で、じゃあどっち応援する~?んー?」

「スタッフの立場から、どっちがとは言えないですけど…

 それでも、クロウさんの大ファンなのは間違いないです!」

「そうか、じゃあ今日はとびきり頑張らないとな!」

「はい、頑張って…ん?ハイスタッフです…えええっ!?」

 会話の途中でインカムから聞こえた情報に驚くスタッフ


 視聴者数:6002人

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 <コメント>好青年のスタッフと好青年の怪人、推せる、推せない?

 <コメント>今日は赤とカラス様みたいですわ

 <コメント>どっちも対決映えするから、待ち遠しい 『500円送りました』

 <コメント>カラスはやっぱ女性人気高いな

 <コメント>初見ですが、とても楽しみですね

 <コメント>初見さんだ!囲め囲め

 <運営>【緊急連絡】本日、赤の魔法少女がこれなくなりました。ただ代理の魔法少女がこちらに向かっているみたいです

 <コメント>え

 <コメント>じゃあ、誰が来るんだ?

 <コメント>あら、ではどなたが来られるのでしょうか

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「クロウさん!今入った情報ですと、赤の魔法少女が来れなくなったみたいでして…」

 突然入ってきた情報に焦りを見せるスタッフ


「なんだって!じゃあ今日の対決は無しってことか?!」

「いえ、どうも代わりの魔法少女が今こちらに向かっていると…」

 インカムから流れる情報を怪人に伝えていたその時

「待たせたわね」

「げ」

 そこに長身の魔法少女が、美しい青髪をなびかせて現れた。


 それを見た怪人クロウは先ほどの明るい表情が一転し、何とも言えない、しかめた表情を浮かべた


 視聴者数:11281人 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 <コメント>あ

 <コメント>あ

 <コメント>はい、解散

 <コメント>青カラスキマシタワーーーーーー

 <コメント>え?

 <コメント>そんな、急にカラス青対決だなんて聞いていませんわ?

 <コメント>青カラスの間違いですわ

 <コメント>??カラス青の打ち間違いでしてよ、お気を付けください

 <コメント>あ?

 <コメント>ん?

 <コメント>女ども喧嘩スンナ!

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「赤の魔法少女に代わりまして、わたくし『ネビュラ・シエル』が対決させていただきます」

 気高い雰囲気の魔法少女が、鋭い視線で撮影カメラに向かって自己紹介を始めた。


「…………スタッフ、ちょっと話が」

「すいませんすいません、上のGOが出てるんで、対決をお願いしますすいません」

 怪人の目も見ず、平謝りをしながらステージの端に移動するスタッフ


「私では不満かしら、クロウ?」

「…だってお前、負けたらいつも引きずって俺に当たるじゃねぇか」

「あら、そんなことありましたかしら?」

「あったから言ってんだよ、この前だって拗ねながらテレビ見てて

 すっげぇ気まずかったんだぞ」

「それはこちらのセリフでしてよ、そちらが負けた時は、事あるごとに私をぺちぺち叩いて、寝る時まで叩いてくるではないですか」

「はー、覚えてないね」

「まったく、いつまでたっても子供ね」

 何時も頼んでもいない二人のやり取りを見た男性スタッフや男性のギャラリーは、しかめっ面をしている。


 視聴者数:13109人

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 <コメント>(砂糖を吐く音)

 <コメント>(砂糖を吐く音)

 <コメント>てぇてぇ  『5000円送りました』

 <コメント>やっぱり青カラスですわ! 『10000円送りました』

 <コメント>ゲリラでカラス青は寿命伸びますわね 『10000円送りました』

 <コメント>お?

 <コメント>は?

 <コメント>え?どうなっているんですか?あの二人の関係は?

 <コメント>同棲中(絞り出すような声)

 <コメント>え…、魔法少女と怪人って付き合っていいんですか?

 <コメント>プライベートと仕事は区別してるってよ(死にそうな声)

 <運営>「対決前の質問は、この二人に関しては無しです。

     前回センシティブな質問を出したやつ許さんからな」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「まあいいわ、赤の魔法使いに代わり、今日は勝たせてもらいますから」

「ハッ、予定とは違うが、俺の勝ちをいただこうかねぇ!」

 お互い臨戦態勢を取る。


 両者構えた後、先ほどのスタッフが無表情でステージ中央に向かった。


「両者そろいましたので、本日の対決を開始いたします…」

 あのやり取りを見たスタッフは元気なくポケットからコインを取り出した。


「では、このコインが地面に落ちたら対決開始です…ルールを守って正々堂々と対決だけをお願いします」

「当然ね」

「ふーーー、ヨシ、いくぞ!」

「では、ただいまより魔法少女ネビュラ・シエルと怪人クロウ・ザ・ナイトの対決を開始します!レディ~~~~~ファイ!」


 キィン!

 コインが大きな音を立て、宙を舞い…


「今日はあなたを跪かせてあげるわ」

「今日はお前を屈服させてやろう」


 カァン…


「先手は譲るわ、どこからでも来なさい」

「そうさせてもらうぜ!

 ―――お前の心に巣食う“希望”を、静かに散らせてやろう

 ―――黒き鎮魂の旋律ブラックフェザー・レクイエム!」

 怪人クロウの背中から生えている1対の翼から、黒い羽根が無数に舞い上がり、

 魔法少女ネビュラの周りを囲み始めた


「やはり、その技を出してきましたか」

「そうさ、そしてこれから起こることもわかるだろう!」

「そうね、でしたら私は対処もできるということもあなたは十分知っているわね」

「さて、それはどうかな―――燃え回れ、キリエ・エレイソン・ブレイズ!」

 周りを舞っている羽がいくつか燃えはじめ、ネビュラへ向かって襲い掛かかる!


 ネビュラは一切動揺せず、抑揚のない声でつぶやく

「олос Небес(ゴーラス・ニベス)」

 ネビュラの中心からすさまじい冷気が発せられ、瞬く間に襲ってきた羽が凍り付いた!


「さて、お次はどうするのかしら、何もなければ次で終わりですね」

「そうだな」

「あら、もう終わりなのかしら」

「いや、同じことを思っていただけだ」

「やはり、あなたとは気が合いますわね」

「ああ、俺もそう思う、だが今は対決中だ」

「それはもちろん、それで次は何を仕掛けてくれるのですの?」

「君を倒す技さ」

「あら恐ろしい、でも私を倒すのには何手必要になるかしらね」


 視聴者数:14221人

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 <コメント>戦いながらいちゃつくのやめて

 <コメント>配信者に精神攻撃は卑怯だぞ!

 <コメント>高貴な魔法少女と熱血漢な怪人の関係…最高です! 『20000円送りました』

 <コメント>こういうのもっとちょうだい!! 『15000円送りました』

 <コメント>敵対する恋人たちの戦い…『2000円送りました』

 <コメント>初見さんが向こう側に行ってしまった

 <コメント>クロウっていう怪人wwwとかやれない空気感、あっま

 <コメント>技名やキャラクターが中二病全開なのに、それどころの感情じゃない

 <コメント>いま見てる人、女性が多くなってきてない?

 <コメント>乙女漫画見たいなシチュだからな…

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「いや、これで終わりだ!


 ―――涙を炎に変えよ

       Lacrimosa Inferno(ラクリモーサ・インフェルノ)!!」

 瞬間、凍り付いたまま宙に浮いていた黒い羽根が一斉に爆発した。

 炎と氷の衝突が巨大な水蒸気を生み出し、ステージ全体が真っ白な煙に包まれる。


 煙が晴れた先には

「今日は俺の勝ちだな」

 怪人クロウが決めポーズで立ち


「…なにをしたの?」

 魔法少女ネビュラが床に伏して倒れていた


「きっと動画にも映ってないだろうから、しばらくは秘密だな」

 敗北した魔法少女ネビュラに近づき、お姫様抱っこで持ち上げる


「あの技は、私が知らない技でしたけれど、どうされたのですか?」

「そりゃ、秘密の特訓さ、そこで特訓したんだよ」

「特訓とは、誰と特訓したですって?」

「え、まあそりゃ怪人仲間とだよ

 最近怪人入りした新人に懐かれてな、交流がてら手伝ってもらったのさ」

「…ちなみに、その新人怪人は男性型ですよね?」

「ん?いや、女性型怪人だけど?なんで?」

「……そうですか。そうですか」

 ネビュラの口元に、氷のように冷たい笑みが浮かんだ。


「いだだだ、急につねるな!」


 視聴者数:28489人

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 <コメント>決着ーーーーーーーーー

 <コメント>何が何だかわからんが、勝利ポーズがカッコよかったからヨシ! 

 <コメント>敗北、お姫様抱っこ、からの匂わせとか怪人クロウさんえげつない

 <コメント>ネビュラの脳みそ壊れちゃう

 <コメント>中二病といちゃつきと新技決着と匂わせとか情報多すぎ!

 <コメント>三角関係が発覚とか…もう…! 『50000円送りました』

 <コメント>これをリアルタイムで見れて幸せです! 『50000円送りました』

 <コメント>なんか、こう、胸がドキドキします!『10000円送りました』

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「今日は俺が勝ったぜ!次回もぜってい勝ってやるさ!

 …あ!秘密組織ネビュロスに興味のある奴は、だれでも歓迎するぜ!

 えー、ホームページから採用情報を見てくれよな!

 俺と一緒に秘密結社ネビュロスで世界征服をしようぜ!」


「本日は負けてしまいましたが、次回は誰であっても勝たせていただきます

 また、魔法少女に興味がある方がいらっしゃいましたら、ぜひ魔法少女連合愛知拠点に連絡を。ともに世界征服をたくらむ悪を成敗いたしましょう」


「それじゃあ、俺らはこれで引き上げるぜ、後はよろしくな!」

 言い終えた怪人クロウは、翼を広げて空に飛び立った。


 魔法少女ネビュラをお姫様抱っこしたまま。

 誰もいなくなった後、最初のスタッフが撮影カメラに向かい立った。


「えー、本日の対戦は怪人陣営の勝利でした。

 次回の対決は2日後の15;30を予定してますので、ご視聴をください。

 えー、過去の対戦やインタビュー動画など、沢山そろえていますので

 この『正義VS悪の対戦管理委員会愛知県支部チャンネル』の

 チャンネル登録と高評価、見てみたい対決などコメントでリクエストください。

 では、これで配信は終了になります。最後までご覧いただきありがとうございました」


 視聴者数:46922人 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 <コメント>今回は見るだけでしんどかったな…いや対決はよかったけれども

 <コメント>見ろ、男性スタッフもよくわからない表情してるぜ

 <運営>「本日の対決は終了しました。ご視聴ありがとうございました。」

 <コメント>乙

 <コメント>お疲れー

 <コメント>相変わらずこの組み合わせはスパチャ額えぐいな

 <コメント>きっと、帰ったらベッド【コメントは削除されました】

 <コメント>【コメントは削除されました】

 <運営>君たちNGね

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次回予告

 愛知県のとある商店街に突如現れた、謎の怪人――その名も野良怪人ジャガネン・ノゲギリ

「オラが腕っぷしで、都会の連中を黙らせてやるッ!」


 その言葉とともにとある商店街に乗り込んできた田舎訛りの強すぎる怪人。

 だが――


「はい、敵でもなんでもなくただうるさいのでビーム撃ちます☆」

「怪人がステージ以外で悪さするのは、駄目だ。おとなしく身柄を寄こせ!」


 魔法少女と怪人、まさかの連携攻撃!?

 無知は罪なのか、圧倒的な「空気の読めなさ」で周囲に心配される田舎怪人の運命やいかに!


 次回――「田舎者、爆散」

 鳴り響く爆発と悲鳴、その先に待つのは……研修!?


 次も絶対に見なさ…ちょっとぉ、クロウなにするのよ?

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