第二話:傘の中で、君と話した

【SE:雨粒がポツポツと窓を叩く音】


教室の窓際。静かに降り出した雨が、昼休みのざわめきをやわらげるように、空気を包み込んでいた。


「……あ、降ってきちゃったね」


そう言ったのは、隣の席の神谷紬(かみや・つむぎ)。

長い黒髪に、ちょっと天然な雰囲気。だけど、時々、やけに鋭いことを言う。


傘、持ってる?と訊こうとして、僕は自分の鞄にそれが入っていないことに気づいた。


「忘れた?」


紬の声が少しだけ笑っている。


「……うん。どうしよう」


「あたしの、入る?」


紬が差し出したのは、黒地に小さな花柄の折りたたみ傘。


「え、でも、それ……」


「二人なら、ちょっとだけ濡れるくらいで済むよ?」


にっこりと微笑むその表情が、なぜか胸に残った。


――なんで、こんなにも“やさしい”んだろう。


【SE:チャイムが鳴る】


放課後、僕たちはその小さな傘の下、駅までの道を歩いた。


「ねえ」


「うん?」


「……なんか、昔もこんなことあったような、気がするんだ」


「え?」


「ほら、小さい頃。たぶん……同じ雨の日」


僕は、はっとする。


その記憶は、まだ曖昧なまま。けれど紬の声が、その断片をそっと引き寄せた。


傘の中、淡く香るシャンプーのにおい。手の甲に触れた、紬の指。


雨は、やまなかったけれど――

僕たちの心は、少しだけ、あたたかくなった気がした。


【SE:遠く、雷鳴が一つ。】

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