第19話「え、ずっとここにいちゃダメなんですか?」

「ねぇ、えーさん。」


昼下がりの牧場。あーちゃんがぽつりと呟いた。


「ずっと……ここにいちゃダメなのかな?」


その言葉に、えーさんの手が止まる。


「ここって、あったかくて、おーちゃんもいて、えーさんもいて……だったら、もう、帰らなくてもいいよね?」


あーちゃんはその日から、オーブ探しも、ダンジョン探索も放棄した。


――ストライキ。


だが、ただの駄々っ子のようなそれには、確かな決意があった。


そんな折、あーちゃんはふとした会話から、いーさんが“勇者を求めている”ことを耳にし、うーちゃんが“王国のスパイ”であるという噂を耳にする。


「……そうなんだ。僕はただ、利用されてただけなんだ……。」


ぐらぐらと崩れ落ちる心。

信じていた人たちが、遠く感じた。


「帰りたい……でも、帰る場所なんて……ない。」


唯一の家族――おーちゃんを抱きしめ、あーちゃんはログハウスを目指した。


その晩、静かに戸を叩いた小さな手。


扉を開けたえーさんの前には、涙をこらえた顔のあーちゃんが立っていた。


「……えーさん、ここにいても、いい?」


答えは決まっていた。


「当たり前だろ。お前の家は、ここにもあるんだから。」


その晩、あーちゃんはおーちゃんと一緒に、えーさんの隣で眠った。


しかしその翌日。


「おい、いーさん、うーちゃん……ちょっといいか?」


えーさんが本気で怒っていた。


「お前ら、何やってんだ。あいつがどんな気持ちで来たか、わかってんのか?」


いーさんは目を逸らしながらも、はっきりと言った。


「私は……本当は、子供を戦わせるなんてこと、ずっと反対だった。でも……王命には逆らえなかった。だからせめて……せめて、あの子の傷くらいは、私が癒したかったの。」


うーちゃんも口を開く。


「儂は……あの子が、孫のように可愛くてのう……王の命令を受け、監視する役目はあったが……あの子が笑ってくれるなら、それだけでよかったんじゃ……。」


えーさんは深く息を吐いた。


「……なら、守ってやれよ。中途半端なまま、距離取るな。あいつは、全部気づいてる。だから泣いてたんだよ。」


その夜、えーさんは机に向かって地図や文献を広げていた。


「……勇者の資格が無理でも、魔王を倒す方法があるかもしれない。俺がやるしかない。」


少年に背負わせすぎた運命を、自分が引き受ける覚悟を胸に、えーさんは次の一手を探し始めた。

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