第20話「え、ここが勇者の拠点になるんですか?」

「ねぇ、えーさん。僕、ずっとここにいたい。えーさんと、おーちゃんと、いーさんとうーちゃんと……みんなで。」


あーちゃんの言葉は、静かに、けれど強い意思をもって牧場の空気を揺らした。


それを聞いた王国は、何をどう取り違えたのか、「勇者様、我が国に永住を決意!」と解釈。

国中が大騒ぎになった。


「勇者歓迎のパレードを準備せよ!」


「特別居城の建設案を出せ!」


「勇者様の銅像、早急に鋳造開始!」


だが、あーちゃんが住みたいのは、あくまで――


「えーさんのおうちがいいの!」


その一言で、王国の計画は全て頓挫。

アーマンタイトスライム牧場は「勇者第一拠点」として登録されたが、一般人の立ち入りは禁止とされた。


そして、あーちゃんの提案で、いーさんとうーちゃんも同居することに。


「私、本当に……ごめんなさい。」


いーさんがそっとあーちゃんに頭を下げる。


「儂も……儂もあのとき、もっと素直に伝えるべきじゃった……。」


うーちゃんも静かに手を重ねる。


「……いいよ、僕。もう怒ってない。みんなで、ここで暮らそうよ!」


こうして、小さなログハウスは、少し大きな家へと拡張されることとなった。


その夜。星空の下、えーさんは一人、牧場の丘に立っていた。


「……女神の封印が“もうすぐ解ける”って言ってたな。」


あの天空城で聞いた女神の言葉が、今になって胸に引っかかる。


「もしかして……もっと鍛えれば、俺の力でも封印を破れるかもしれない。」


この世界に来てからずっと、影で誰かを支えることが自分の役目だと思っていた。でも、もし誰もできないことを自分ができるなら――


「……やるか。」


翌朝から、えーさんのアーマンタイトスライム狩りが再開された。


あーちゃんとおーちゃんは、その様子を見ながらこっそり囁く。


「えーさん、また本気になってる……。」


「ぷるっ(楽しそう)。」


こうして、勇者の第一拠点は、今日も穏やかに、でも着実に、力を蓄えていくのであった。

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