第18話「え、敵でもスカウトしてくるんですか?」

「これが……アーマンタイトスライム牧場か。」


スライム牧場の入り口に現れた黒いローブの人物。四天王の参謀、名をルベルと名乗る彼は、鋭い目つきで牧場を見渡した。


「どうも。今日は視察ってことでいいんですか?」


「ええ、ええ。興味深いと聞きまして。」


「仲間が敵の育成場に来て大丈夫なんですかね?」


「魔王軍は“弱肉強食”の理念に基づいて動いています。強くなるためなら、方法は問わない。」


「なるほど、わかりやすい。」


えーさんは、位置義理堅にもらった菓子折りを持ってきて、お茶を出す。


「これ、うちで人気の“金魔芋パイ”です。」


「……まさか四天王が手土産を持って現れるとは思いませんでしたが、これはこれで美味ですね。」




「なぁ、ここでレベル上げても、あーちゃん倒して何になるんです?」


問いかけたえーさんに、ルベルはゆるく笑った。


「そもそも、魔王様はすでにレベル上げの余地がありません。成長上限というやつです。もしあーちゃんを倒したとしても、君が出てくるだけだろう?」


「……言われてみれば。」


「そう。だから今は、君たちが世界をどう導くのかを、興味深く見守っているだけなのです。」


緊張感のない静けさの中、えーさんはふと、遠い空を見上げた。


「牧場ってのも、奥が深いな……。」


「この効率的なスライム育成法、魔界にも持ち帰りたいほどですよ。」


一方その頃。


「いたた……。」


あーちゃんは、小さなすり傷をいーさんに包帯で巻いてもらっていた。


「少しは気をつけろっての……。」


「うぅ、ごめんなさい。でも、助かったよ。」


うーちゃんも横で回復魔法を唱えている。


「まったく……そなたも、そろそろ限界を知っておくべきじゃのう。」


でも、その口ぶりはどこか優しくて、あーちゃんも自然と笑みを浮かべる。


(……この人たち、連れて帰れたらな。)


元の世界に戻ったら、えーさんと、おーちゃんと、そしてこの二人も一緒に。


みんなで暮らせたら、どんなに楽しいだろう。


「みんなで住める大きなおうち、あるといいな……。」


夢のようなその言葉が、夕焼けの中に溶けていった。

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