第17話「え、ストーリー外キャラなんですか?」

「ごきげんよう。本日は心よりお詫びに参りました。」


朝のスライム牧場。突然現れたスーツ姿の男に、えーさんは戸惑っていた。


「……お前、誰?」


「魔王軍・四天王の一角、位置義理堅(いちぎりけん)と申します。今日は、我が軍の者たちが貴殿に多大なご迷惑をおかけしたことを深く反省し、手土産を持って謝罪に参上しました。」


位置義理堅は、両手で大きな菓子折りを差し出した。包装紙には“天空の和菓子処・飛天庵”と金字が踊っている。


「……え、大丈夫?魔王軍。なんか、組織としての方向性とか。」


思わず呟いたえーさんに、位置義理堅はにこやかにうなずく。


「ご心配なく。我々、ストーリー上では“倒さなくてもいい”とされておりますので。」


「……えぇぇ……。」


「あくまで“脇役”として、適度に刺激とイベント性を提供する役割でして。ですから、倒されても構いませんし、倒されなくても構いません。」


「それ、存在としてどうなんだ……。」


「ということで、こちらの菓子折りと、あちらの魔界茶をご一緒に。」


「お、おう……。」


こうして、ログハウスの縁側では、えーさんと四天王の一角が和やかにお茶を楽しむ異様な光景が広がっていた。


「……あーちゃんには、知らない人から食べ物もらうなって言ってたんだけどな。」


自分で言ってて矛盾を覚えるえーさんであった。


その頃――


「ついに……ゲットォォォ!」


遺跡の奥で、あーちゃんが両手を掲げていた。

掌の上には、七色に輝くオーブ。

その美しさに、おーちゃんもキラキラと共鳴するように光っている。


「よし、これで三つ目!」


あーちゃんはオーブを大切にしまうと、特製の宝石箱を取り出し、そっと収めた。


「ふふん、これでまた一歩、勇者らしくなったね!」


その顔には誇りと喜びが満ちていたが――


「……勇者様、さすがです! 勇者様、万歳!」


街に戻ると、いつものように声をかけてくる町の人々。

だがその言葉に、あーちゃんの笑顔は少しだけ翳る。


(僕が子供だからって、戦わせて、オーブ集めさせて……それで都合のいいときだけ“勇者様”とか言っとけば喜ぶと思ってるんだ。)


胸の奥に渦巻く違和感。それは、成長と共に強くなっていく感情だった。


「……僕は、僕のために戦うんだ。えーさんと、おーちゃんと、一緒に生きてくために。」


誰にも聞こえない声で、そう呟くあーちゃんの背中は、小さくも凛としていた。

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