第16話「え、お願いって難しいんですか?」
「うーん……やっぱ、まだちょっと不安かな。」
夜、ログハウスのベッドの上で、あーちゃんはもぞもぞとシーツを引き寄せながら呟いた。
レベルは順調に上がっている。
剣の扱いも、魔法も、今ではほとんどひとりで戦えるほどに成長した。
でも――心の奥に巣食う、小さな影は消えなかった。
「……やっぱり、えーさんがいないと不安だなぁ。」
一方その頃、えーさんはスライム牧場でせっせと作業中だった。
「これで水路が二本目、エサ用の草地も自動再生……っと。」
えーさんは、アーマンタイトスライム育成の効率化を図るため、牧場設備を“進化”させていた。
水魔法による水供給システム、土属性で作った自動迷路型運動場、さらには放牧中のエンカウント記録をするためのスライム日誌まで。
「これが本当の――牧場改革だ。」
満足げにうなずくえーさんの背中には、まるで牧場長の風格が漂っていた。
そして翌日。
「今日は、南の山村でオーブの手がかりがあるらしいよ!」
あーちゃんとおーちゃんは、早速村へ向かう。
が、そこに待ち受けていたのは――
「村の井戸が詰まっててねぇ。」
「鶏が逃げちゃって……。」
「あの屋根直してくれたら、礼として情報を渡すよ。」
「……大人って、なんでいっつもお願いばっかり……。」
口をとがらせるあーちゃん。
彼は大人という存在が少し苦手だった。
いつも上から目線で、言うことを聞けと命じるような態度が嫌だった。
(でも……ここで引き下がったら、オーブが手に入らない……。)
小さな拳をぎゅっと握る。
「わかりました。僕がやります。」
そう言ったあーちゃんの顔は、ほんの少しだけ、勇者らしかった。
鶏を追いかけ、屋根を直し、井戸の中に入ってゴミを取り除いた。
「ありがとう……まさか、勇者様がこんなことまでしてくれるとは……。」
「……うん。でも、お願いを聞いてくれるなら、僕だって……ちゃんとお願いしてもいいんだよね?」
その言葉に村人は、静かにうなずいた。
「オーブの在処、教えましょう。近くの遺跡にあります。ただし――。」
あーちゃんはもう、次の冒険に気持ちを切り替えていた。
ログハウスの夜。えーさんは、日誌を片手に呟く。
「……あーちゃん、ちゃんと前に進んでるな。」
進化する牧場。成長する勇者。
そのどちらにも、“誰かのために”という想いが込められていた。
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