第15話「え、そんなに育ってるんですか?」
「えーさん、見て見て!レベル、56になったよ!」
早朝、ダンジョンの入り口で、あーちゃんが誇らしげにステータスを掲げた。
その隣では、おーちゃんが少し大きくなった身体でピョンピョン跳ねている。
虹色のゼリーの中に、ほんのりと角のような光の結晶が浮かんでいた。
「おーちゃんもレベル30だって!進化したかも!」
「ほう、それはすごいな。」
えーさん――俺は、ちょっとだけ感心しながら二人を見守っていた。
このところのあーちゃんの成長は目覚ましかった。
スキルの扱いも格段に洗練され、魔物との駆け引きやトラップ回避も一人でこなせるようになっている。
「よし、今日は北の森ダンジョン、行ってみよう!」
「オーブ、そろそろ見つかるといいねぇ……。」
えんやこら、えんやこらと、トラップを抜け、扉を解き、魔物を撃退する勇者ペア。
ダンジョンの奥へと進む彼らの背中は、もはや立派な冒険者そのものだった。
そして。
「えーさん、ちょっとだけ違和感感じるよ……。」
「……あ?」
ダンジョンの中層で、あーちゃんが唐突に立ち止まった。
空気の流れに違和感を覚え、武器を構える姿はもはや“直感型の猛者”だった。
「……!」
その直後、天井から大岩が落ちてきたが、あーちゃんは軽やかにおーちゃんと共に跳んでかわす。
「ナイス反応!」
「ふふん、最近ちょっとだけ“危機感”ってやつが分かってきたんだ!」
冗談交じりに笑うあーちゃんを見て、俺の胸にふと不安がよぎる。
(……このまま成長し続けたら、俺、ほんとに必要なくなるんじゃ……。)
だがその時、あーちゃんが振り返って言った。
「でも、危なくなったら絶対えーさん呼ぶからね!」
「……ああ、いつでも来るさ。」
その言葉に、ちょっとだけ救われる気がした。
その日の探索でオーブは見つからなかったが、えーさんの胸には別のもの――“勇者の背を支える責任”が深く刻まれたのだった。
その晩。
ログハウスの縁側で星を眺めながら、俺はしみじみと呟く。
「しかし……ほんとに成長したな、あーちゃん。こりゃ、そのうち俺のこと“引率者”じゃなく“過去の人”って言うかもな……。」
「それはないよ!」
「……うおっ!? いつからそこに!?」
「ずっといたよ? ほら、牛乳持ってきた。」
あーちゃんが差し出したコップを受け取りながら、俺はちょっとだけ目頭が熱くなった。
「ありがとう。……あったかいな、これ。」
「ホットミルクだもん!」
勇者の剣を背負った小さな背中は、今日もまっすぐだった。
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