第14話「え、女神様が封印されてるんですか?」

「女神さまに会えば、勇者の資格もどうにかなるかもしれんぞ。」


ある日、うーちゃんがぼそりと呟いた。


古い文献を漁っていたうーちゃん曰く、天空城レベル90の最奥には、かつて世界を守った女神が眠っているという。

そして彼女こそが、勇者の資格を授ける存在だと。


「まぁ、行くだけ行ってみるか。」


俺――えーさんは、単独で天空城へ向かった。


風が渦巻く空中遺跡、重力の乱れた石橋、無数の飛行型モンスター……それらを軽くあしらいながら進んだその先。


「……女神、さま?」


その場にいたのは、確かに女神だった。

白金の髪、透き通るような肌、荘厳なローブ……しかし。


「た、助けてくれませんかぁぁぁあああ!」


金色の魔法陣の中で、涙目で暴れるその姿は、どう見ても“困っている人”。


「どうしてこうなってんの?」


「私の作った封印魔法陣、魔王を封じるためだったのに、巻き込まれて私まで封印されちゃって!」


「えぇぇ……。」


「もうすぐ封印の効力が切れちゃうの!早く魔王を倒して!人間たちに地上をぐちゃぐちゃにされちゃうぅ!」


「なんで人間をそんなに警戒してるの……。」


「私の像、最近変な宗派に使われてるし……。」


事情はともかく、女神は封印された状態では何もできない。

勇者の譲渡どころか、えーさんにお茶すら出せない。


「……つまり、俺は勇者にはなれないと。」


「うん。でも、勇者候補の育成なら……あの子、頑張ってるよね?」


あーちゃんのことを言われて、えーさんはふっと笑った。


「だな。あの子が勇者として立つまで、俺が全力で育てるよ。」


かくして、“勇者の譲渡”作戦は、“勇者育成計画”へと即時変更された。


その頃。


「おーちゃん、がんばろー!」


草原のあちこちで魔物を倒しまくっていたあーちゃん。

勇者の剣を携え、おーちゃんとコンビを組んでの戦闘スタイルも板についてきた。


「おーちゃん、レベルアップしたね!ちょっと大きくなってる!」


ぷるん、と一回りサイズの増したおーちゃんが、得意げに跳ねる。


「ぼくも、いつか大きくなれるかな……。」


空を見上げるあーちゃんの目には、夢と希望が詰まっていた。


“元の世界に戻れたら、えーさんと一緒に暮らすんだ”


その信念を胸に、あーちゃんはまた剣を構える。


その小さな背中は、確かに、勇者の風格を帯びはじめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る