第8話「え、そんなに頑張ってたんですか?」
「よし、僕のレベル、今日は14になった!」
サイショの草原で、あーちゃんがスライムを倒してはポーズを決めていた。
身長に似合わぬ大剣(特注の木製軽量モデル)を背負って、彼はどこか誇らしげだった。
「これなら、次のダンジョンも余裕だよね!」
その目には自信と期待が満ちていた。
――しかし。
「いっ……たぁぁあい!!」
洞窟の中、魔法の罠を踏んでひっくり返ったあーちゃんが、涙目で杖を投げ捨てた。
「む、無理だよ!なにこれ!痛いし暗いしモンスター強いし、なんで敵が3体連続で出てくるの!?」
結局、あーちゃんは入り口で即リタイア。
帰り道、ぶつくさ文句を言いながら、それでも心の中では悔しさが込み上げていた。
「……えーさん、なんであんなに強いの……?」
その晩。
あーちゃんは、スライム牧場の端でえーさんを見つけた。
「えーさん、ねぇ、レベル上げのコツってあるの?」
「コツ?」
えーさんは、汗まみれのシャツの裾を絞りながら、こちらを振り返る。
背景にはぬかるんだ牧場。
足元には自作のトラップとアーマンタイトスライムの群れ。
「んー、しいて言えば、“倒せる中で一番強い相手を探して、休まず倒す”。それだけだよ。」
「……毎日やってるの?」
「毎日。スライム逃げるからね。寝るのも交代制で……。この辺で水を沸かして、干し肉戻して――。」
「……え、待って。」
あーちゃんの瞳が潤み始める。
「えーさん……そんなぎりぎりの生活してたの……?」
「まぁ、趣味みたいなもんだし。」
「……っ。」
次の瞬間、あーちゃんはえーさんにしがみついた。
「死なないで!えーさん、死んじゃやだ!」
「え、え?」
「えーさんは僕のえーさんなんだから……死なないで……!」
泣きじゃくるあーちゃんの声に、えーさんはただ、ぽんぽんと頭を撫でることしかできなかった。
「……大丈夫だよ、あーちゃん。俺は、死なない。君が世界を救うまで、絶対に、だ。」
その夜、あーちゃんは初めて、えーさんの寝床――石の上に置かれた布団を見て、「一緒に寝よう」と言い出した。
そして眠りに落ちるまでずっと、「えーさんはすごいんだよ」と語り続けた。
えーさんの胸の奥で、何かがそっとあたたかくなるのを、彼自身も感じていた。
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