第9話「え、僕のじゃなかったんですか!?」

「レベル、23!」


サイショの草原からミレトの洞窟に至るまで、あーちゃんは今日もレベリングに燃えていた。スライム、ウルフ、ミミック(誤って開けた宝箱)……すべてを薙ぎ倒し、今や装備も強化済み。


「いよいよ……ダンジョン、再挑戦だ!」


そして、あの“涙のリタイア”から数日――


「でやああああ!!」


洞窟奥、かつて歯が立たなかった巨大ガーゴイルを前に、あーちゃんは全力でぶつかっていた。


魔法陣の読み解き、トラップの回避、連携する魔物たちへの対応。すべてが見事だった。


「これが、僕の力……!!」


最後の一撃がガーゴイルを打ち砕き、壁の奥から現れたのは――虹色に光る球体。


「……オーブだ!!」


一方その頃。


「勇者代理になっていただきたい。」


玉座の間で、王様が苦虫を噛み潰したような顔で告げていた。


「いやいや、俺、補欠ですよ?」


「勇者ああああは5歳です。常識的に考えて、そなたが補佐に立つのが妥当であろう!」


「まぁ、否定はできないけど……俺、そういうの苦手だし……。」


「では、国の宝物庫に眠る“勇者の剣”を託そう。それで文句なかろう!」


「……しゃーなし、行ってきます。」


かくして、王国最奥の宝物庫――通称「地下Lv.60ダンジョン」へ。


えーさんは軽装で乗り込み、スライムのように素早く、ドラゴンの如く力強く、罠も魔物も突破していった。


そして、最奥の石台に刺さっていた一本の剣。


《勇者ああああ 専用装備:光輝の聖剣》


「……名前がもう専用だし、抜けたし、持てたけど……これ、俺のじゃねぇな。」


その晩。


「はい、あーちゃん。これ、君の剣。ちょっと早いけど、先に渡しとく。」


「……え、これ“勇者の剣”ってやつじゃないの?」


「うん。でも、俺じゃ持っててもしゃーないし。君が使った方が似合う。」


「……えーさん……。」


あーちゃんの目が潤む。


「これで、もっと強くなれるね!」


「そうそう、そしたら俺のレベルも抜かれるかもなー。」


その笑顔を見ているだけで、えーさんの心はほっこりしていた。


……ただし。


王様は、城の玉座で机を叩いていた。


「なにぃぃぃ!?渡したのか!?勝手に!?しかも正式な授与式もなく!!」


「まぁ、いい子に育ってますよ。」


「よくない!!」


そんな王様の声もどこ吹く風。えーさんはスライム牧場で寝袋にくるまり、平和な夜を満喫していた。

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