第4話「え、魔王倒せないんですか?」

「はじめまして、ええええさんですね?僧侶のいいいい、いーさんとお呼びください。」


突然、俺の部屋に現れた一人の女性。

肩までの黒髪に、どこか鋭い目。

癖のない白衣装に、槍のような杖。


「……え、誰?新手の請求者?」


「違います。私は勇者様のパーティーに参加するために訓練されてきた正式な僧侶です。」


「勇者の?」


「はい。あなたはその補欠。つまり、非常時対応要員です。」


言い方ぁ!


「で、その非常時って今なんですか?」


「いえ、ただステータス診断を行いに来ただけです。」


そう言って彼女は俺の額に手を当てる。


「……なにこれ。数値が見えない。いや、見えるけど……え?レベル257?基礎値500?バグってる……。」


「俺、そんなに変か?」


「変どころか、モンスターとして登録されかねないレベルです。」


やっぱり変なのか……。


「このレベルだと、下手すれば魔王より強い可能性も……。」


「なるほど。じゃ、魔王倒してくる。」


「はやっ!?いや、待ってください!装備とか、魔法陣の知識とか――。」


もう聞いてなかった。

俺は久々にスライム牧場から取り出した「アーマンタイト鉄拳」を装備して、魔王城へ向かっていた。


魔王城。

黒雲と雷に包まれた、如何にもな要塞。

門は既に壊してある(前回来たときに一応蹴ってみた)。


「さて、魔王、出てこい。」


奥の間に踏み込んだその瞬間。


「ふむ……そなたが勇者か……いや、違うな?誰だ、そなた?」


黒マントの美青年が立ち上がる。

多分これが魔王。


「予備です。」


「……予備?」


魔王は困惑の表情を浮かべた。

ああ、今の俺はただの予備だ。


「行くぞ、アーマンタイト鉄拳――!」


「ちょっと待った!!」


その瞬間、目の前に金色の魔法陣が出現し、拳を弾いた。


「いてっ!?なにこれ!?防御系?」


「封印のバリアだ。勇者しか破れぬ。……いや、そもそも破ってもらっては困るが。」


「じゃ、倒せないのか……?」


「勇者が魔法のオーブを七つ集めなければ、バリアは解除されん。双方の攻撃は一切通らぬ。わかるな?」


「……つまり、イベントフラグってやつか。」


魔王は深く頷いた。


「とっとと帰って、勇者を急がせろ。私も心の準備というものがある。」


いや、魔王ってそんな繊細なポジションだったっけ?


「じゃあ、また来るな。」


「うむ。差し入れとかあると嬉しい。」


「考えとく。」


……こうして俺の初・魔王討伐は未遂に終わった。封印って強いな。


勇者が世界を救うまで、俺はまたアーマンタイトスライムと戯れることになりそうだ。

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