第3話「え、俺が戦うんですか?」

「えーえーえーえええええ!」


「名前で遊ぶなって言ってるだろ!」


王城の食堂で朝から怒鳴り声が響いた。

原因はもちろん、召喚士さん。

今日も真顔で突然やって来ては、俺に無茶ぶりしてくる。

おかげでパンが喉に詰まりかけた。


「……何の用ですか、召喚士さん。」


「魔王軍の偵察部隊が南の村に現れました。」


「ふむ。」


「討伐お願いします。」


「ふむふむ……って、何で俺!?」


召喚士は微動だにしない。


「勇者様はおままごとに忙しいです。」


「いや、そこは止めてあげて……ていうか俺バックアップなんですけど?」


「バックアップが機能しないと本体が壊れます。」


「いや、それ、パソコンの話じゃない?」


ため息をつきながらも結局俺は引き受けた。

何だかんだであの子――あーちゃんに何かあったら嫌だし、王様にまた説教されたくもない。

何より、召喚士さんがじっと見てるのが怖い。


というわけで、南の村へ向かうことにした。途中、道端でスライムに絡まれたが、ワンパン。

体が軽いってすばらしい。


村に着くと、案の定人々は怯えた様子。

村の中心では村長らしき人が待っていて、俺を見るなり駆け寄ってきた。


「おお、お助けを!森の奥にゴブリンの軍勢が!」


「軍勢って、何体くらいですか?」


「えーと……80体ほど……。」


「偵察じゃねぇじゃん……。」


深呼吸ひとつ。まぁ、やるか。俺、レベル257。

相手がゴブリンなら、何とかなる。


森の中は騒然としていた。

でかいゴブリン――リーダー格のゴブリンロードが咆哮をあげ、こちらに気づく。


「……さて、行きますか。」


拳を握る。風を切って飛び込む。次の瞬間――


「ドカァ!」


一撃で3体が吹っ飛ぶ。

続いて、パンチ、キック、ドロップキック。

魔法?そんなもの、いらん。


15分後。静まり返る森。

ゴブリンたちは転がり、俺は無傷。


「うーん……強くなりすぎたかも。」


帰り道、アーマンタイトスライムを思い出して少し懐かしくなる。


王城に戻ると、召喚士が無言で出迎えた。


「任務完了。報酬は?」


「来月の支給日に。」


「現金がいいです。」


「じゃあ、干し肉で。」


「それ、金銭じゃない……。」


しょんぼりしていると、後ろから小さな手が俺の裾を引っ張った。


「あーちゃん……。」


「えーさん、おかえり!」


笑顔が眩しい。あぁ、この子の笑顔があるなら、もうちょっと頑張ってみようか。


俺はまだ、バックアップだからこそ自由に強くなれるのだ。


そしてこの先、世界がどんなに騒がしくなろうとも、レベリングさえしておけばきっとなんとかなる――そう信じていた。


……この時までは。


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