第5話「え、伝説って忘れるんですか?」

「お初にお目にかかる、ええええ殿。私、賢者のクニセルヴァ。通称、うーちゃんと申します。」


風のように静かに、しかし堂々と現れたその男は、透明感のある白銀の髪に、整った顔立ち、まるで少女漫画の王子様。

見た目はどう見ても二十代前半。

しかし、口調は妙におじいちゃん。


「……誰?」


「賢者じゃよ。」


「そのビジュアルで?」


「うむ。見た目は若くとも中身は3000年生きた知恵袋。たまに袋に穴が空いておるがな。はっはっは!」


いーさんが頭を抱えた。慣れてるのかもしれない。


「さて……今日は伝説の話をしに来たのじゃった。七つのオーブを集めし真なる勇者だけが、魔王を封印する大魔法陣を解除できるのじゃ……。」


「……」


「……じゃ、じゃ……あれ?何だったかの?」


「早すぎだろ!」


いーさんのツッコミが城中に響いた。


「思い出したら教えるので、お茶でも淹れてくださいな。」


「もてなされる気か……!」


俺がそうツッコミを入れる間にも、どこかの部屋でドタバタと音がする。


「えーさん!」


勢いよくドアを開けて現れたのは、ちっちゃい我らが勇者――あーちゃん。


「僕、レベル上げしてくる!えーさんみたいにかっこよくなるために!」


「お、おう……気をつけてな?」


あーちゃんは全力で頷くと、走っていった。

向かう先は――サイショの草原。

初心者向けの狩場。


「さて、俺もそろそろスライムのエサやりでも……。」


と思っていた矢先だった。


「ギャオォォオオオオオ!!」


凄まじい咆哮。

空が赤く染まり、草原の上に降り立ったのは――フレイムドラゴン。

レアエネミー中のレア、しかも高レベル個体。


「えーさん!」


あーちゃんが振り返って叫ぶ。

その表情は――恐怖。


「くそっ、間に合え!」


俺は疾風のごとく走る。距離が近づく。炎がこちらに向かって吐かれる――


「おいおい、火遊びは危険だぞ!」


ドカァァァン!


俺の拳が、フレイムドラゴンの顎を粉砕し、炎ごと吹き飛ばす。

周囲の草が焦げ、風が止まる。


ドラゴンは倒れ、静寂が戻る。


「……えーさん、すごい……!」


あーちゃんが呆けたように俺を見上げていた。

その目は――憧れそのものだった。


「怪我はないか?」


「うんっ!」


あーちゃんの笑顔に、俺はちょっとだけ照れながら、頭を撫でた。


その頃。


賢者うーちゃんは、いーさんと共に俺のステータスを見ていた。


「これは……レベル257……基礎値も平均500越え……?」


「やはり……この者、只者ではない……。」


そしてうーちゃんは静かに立ち上がる。


「王に……報告せねばなるまい。勇者の代わりに、世界を変える者が現れたかもしれんとな……。」


その瞳の奥には、ただならぬ光が宿っていた。


――王国の影が、静かに蠢き始める。

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