第4話 天文の涙

「うわぁぁぁ。綺麗~!」

私は思わずそう呟く。空には無数の星々が神秘的な光を発しており私はつい見とれてしまう。毎日ではないが高頻度で星を見ているはずなのに今日はなぜかいつもより数倍綺麗に見えた。

「ほんと綺麗ねぇ~!」

横にいるアスナ姉さんも空を見上げながらそんな言葉を呟く。私は星を見上げながら数分前のアスナ姉さんの言葉を思い出す。「なんで私だけ生き残っちゃったんだろってね」。あの時のアスナ姉さんの表情はとても悲しそうで哀愁漂っていた。私はまだこの人と出会って一日も経ってないけど、この人の人柄の良さは充分理解できたつもりだ。それに私に残された数少ない家族なのだ。家族に辛い思いはさせたくない。私はそう考えている内に自然に言葉が出ていた。

「アスナ姉さん。」

「ん~?どうしたの?」

「過去が辛いのは分かります…。だって…、私もそんな気がするから。」

私のいきなりの言葉にアスナ姉さんは驚いた表情で私を見ている。

「自分でもよくわからないんです。なんで私は師匠の弟子になったのか…、なんで師匠は私を迎え入れてくれたのか…。それに私は本当の血の繋がった家族のことも何も覚えてないし、何も知りません。でも、なぜかわかるんです。私の過去は決していいものではないって…。」

アスナ姉さんは隣で静かに耳を傾けてくれている。

「でも、それでも、私は今の自分が大好きです!朝起きて歯を磨いて朝ごはん食べてそして学校に行く!私はこの当たり前の生活が好きだし、それに、幸せです!」

アスナ姉さんは目を見開きながら私を見ていた。そんなアスナ姉さんに私は言葉を紡ぐ。

「過去を悔やんでネガティブになるのも分かります。でもアスナ姉さんの両親はきっと自分たちの分も幸せになってほしいと願っているはずです!だから、」

私はアスナ姉さんの手をとる。

「姉さんにはもっと幸せになる権利がありますよ!」

「イブ………。」

私が満面の笑みで答えるとアスナ姉さんはそっぽを向く。けれど体は小刻みに震えていた。見えなくても分かる。アスナ姉さんはきっとこれまでとてつもない罪の意識を背負ったまま生活してきたのだろう。だけど私の言葉で少しは救われたと思う。それに多少はその罪からも解放され姉さんは改めて幸せになる権利を得たのだ!

「全く、大人が泣くなんてみっともないですねぇ。」

「うるさいわね…。泣くわけないでしょ。アンタみたいなちんちくりんの言葉で…。」

「そこまで言う?!」

アスナ姉さんが落ち着くまで数十分が経過した。それほどまで追い詰められていたんだろう。それから私は落ち着いた姉さんにふとした疑問を姉さんに問いかける。

「そういえばさっき、姉さんは私の名前呼びましたよね。」

「えぇ。呼んだけど…。それがどうしたの?」

「いや、よく考えたら私、自己紹介してなかったなって。」

「あぁ~確かにそうね。まったく、私はちゃんと名乗ったってのにあんたは名乗らないって失礼なやつよね」

「それはお互い様だと思いますがぁ…。」

「まぁあんたのことはフロスト様から聞いてたからね、よく。」

「師匠から?」

「そうよ、それにフロスト様が亡くなる前に私はあるお願いをされたのよ。」

「お願い?」

「えぇ。そのお願いはね…。あんたを私に託すことだったわ。」

「え?!」

私は思わずそんな声を出す。姉さんは私に頭に手を置く。するとある記憶が流れ込んで来る。これは共有魔法の応用?

流れ込んできた記憶は映像に変わる。その中にはアスナ姉さんとベッドに横たわる師匠の姿があった。

「アスナ、悪いね…、六賢者とうたわれた私も今はこのザマさ」

「母さん…。」

「アスナ、最後に私のお願いを聞いてくれないかい?」

師匠はベッドから手を出し姉さんの手に重ねる。

「うん…、なに?」

「あの子を、イブを、頼んだよ…。」

師匠は弱々しい声でそんなお願いをする。すると映像がそこで終わった。

「今のは…」

私が困惑しているとアスナ姉さんがまっすぐな瞳で私を見て告げる。

「私は母さんから最後にイブの事を託された。だから、私はあなたを守らなきゃいけない。家族として、姉として…。」

「姉さん…。」

姉さんのその表情と声音からは何を決心したような思いが伝わってきた。私は何か暖かいものを感じた。その家族からの思いやりを。


それから姉さんは一日私の家に泊まり次の日には仕事でまたいかないとダメという事で支度をする。こころなしか、昨日より姉さんに笑顔が増えている気がした。そんな姉さんに私は言った。

「姉さん。またきてくださいね。待ってますから。」

そんな私の言葉に姉さんは。

「もちろんでしょ。大事な妹をほったらかしにするほど私は畜生じゃないわ」

アスナ姉さんは優しい表情でその言葉を告げる。すると姉さんは今一度私に向き直って言葉を紡ぐ。

「イブ、あんた、きっと将来すごい魔女になるよ」

「えぇ?いきなりどうしたんすかぁ?そんな当たり前こと今さら言われても。」

私がボケても姉さんは真剣な顔つきで私を見ている。少し滑ってきまずかったが私は改めて姉さんに向き直る。

「あんたには人に希望を与える力がある。それはどのような偉大な魔道士にもないあんただけが持ち、誇れる力よ。だから、その力でみんなに希望を、笑顔を届けてあげてね。母さんもきっと、それを望んでる」

姉さんはそう言葉を紡いだのち帰っていった。

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