第3話 天文の過去
「へぇ。結構いい家じゃない。」
「随分上からだなこの女」
「聞こえてるわよ」
夜10時頃、私はお風呂に入り、そのまま夢の世界に飛び立とうと思っていた矢先、突如としてこの失礼なおんなじゃなく六賢者の一人で天文の魔女ことアスナが家凸してきた。
私はとりあえず招き入れ紅茶を差し出したのち彼女の対面側に座る。
「あ、どうも~(^^)」
アスナさんはヘラヘラとした顔で言う。
私はとりあえず誰もが知りたいであろう質問を投げかける。
「それで、アスナさんはなんでこの家にきたんですか?しかもこんな時間に、」
「ふふ、知りたい?」
「そりゃそうでしょうよ」
私がそう言うとアスナさんはすこし真面目な顔になり告げる。
「あんたがあの六賢者の一人で"大地の魔女"の二つ名をもつフロスト様の弟子って聞いたからね。直接見てみたいと思ってきたわけ。」
私の師匠は六賢者の一人であったがその力と功績は魔政府でもトップクラスに高く有名であった。その大魔道士の弟子ともあればそりゃ人目見てみたいと思う気持ちも頷ける。
しかし、そんだけのことでわざわざこんな時間にこんな所に来るだろうか。確かに来る理由としては頷けるものだが何か引っかかるんだよなぁこの人からは。
私がいろいろ考えているとアスナさんが声をかけてくる。
「それにしてもあんたがあのフロスト様の弟子ってねぇ。うんうん」
アスナさんは私の顔をジロジロ見ながら呟く
「初対面で乙女の顔を凝視するとは何事かぁ!」
「ありゃ。それはごめんなさいね。許してぇ?」
「キツっ…」
「殺す(^^)」
そんなこんなでアスナさんと漫才を繰り広げているとふいにアスナさんが呟いた。
「あんた、フロスト様の弟子っていうんだからやっぱ同じ魔法が使えたりするの?」
「そうですね。多少は使えますがまだまだですよ。」
「まぁ、そりゃそうよね。見る限り貧弱そうだし」
「さっきから一言多いんじゃワレェ」
私は確かに師匠の弟子だ。だから教えられた魔法も主に師匠と同じ大地の魔法だったが流石に師匠ほどとはいかないのだ。
なにせ師匠は六賢者に属すほどの大魔道士なのだから。
ていうかこの人はさっきから師匠の事を知ってるふうに話すけど師匠とお知り合いなのだろうか。私はとりあえず尋ねてみる。
「あの、アスナさん。少し聞きたいんですけど…」
「ん?なぁに?」
「アスナさんと師匠ってどういう関係だったんですか?」
アスナさんは少し黙り込んでやがて口を開く。その事実を。
「そうねぇ。まぁ簡単に言ったら命の恩人、かしらねぇ。」
「命の恩人?師匠が?」
「そうよ、私がまだ小さい頃の話ね。」
アスナさんはその過去と師匠との関係をポツポツと語り出す。命の恩人の弟子には言っても大丈夫と思ったのだろう。
「私はある小さな村で家族と暮らしていたの。私は星が大好きでね。よく夜になると外に出て星を眺めていたわ。」
「星、ですか。」
私は星と聞いて彼女の二つ名を思い出す。「天文の魔女」。彼女は確かにそう呼ばれていた。
「それでね。ある日私はいつものように外に出て星を見に行ったの。でもその日はもっと静かな場所で見たいと思って少し遠くまで行ってた。そりゃ村を少し出た所までね。」
「アスナさんはほんとに星が好きだったんですね」
「そうね。だから今は天文の魔女と呼ばれるくらいだからね」
私も星はある程度好きだ。暗い中に広がる無数の光を見ると悩みや疲れが吹っ飛んでしまうほどに。でもアスナさんはそんな私よりも星が大好きなのだろう。
だから今は天文の魔女と呼ばれるくらいになっている。
「あの時の星空は今まで類を見ないほど綺麗だったわ。わたしはほんとに心の底から幸せな気持ちだった。」
アスナさんはその思い出を噛み締めるように語る。
「でもね、その後私の人生がぶち壊れたの。あの時にあった幸せな気持ちもぶち壊された…。私が村に帰ると村は火の海だった。生き残りなんて一人もいない。私の故郷は、思い出の場所は…、たったの数時間でぶち壊された。」
「そんな…」
「私は帰る場所を失った。絶望した。絶望しすぎて涙も出ないほどだったわ。その時私は思った。なんで私なんかが生き残っちゃったんだろ、私のせいでお母さんたちはってね」
アスナさんはその時の情景を思い出しながら、少し悲しみが混じった声で語る。
「でもね。そんなときフロスト様が助けてくれた。私を拾ってくれたの。」
「フロスト様は身寄りのなかった私を家族として暖かく迎え入れてくれた。私はそれが本当に嬉しかった。」
アスナさんはとても穏やかな表情で語る。
「師匠と住んでいたってことはもしかしてアスナさんも、」
「えぇ、そのままフロスト様の弟子になったわ」
「てことは私の姉弟子ってことになるんじゃ?!」
「ほう、そりゃいいわね。これから私のことはアスナ姉さんと呼びなさい!」
「えぇ~」
「そこまで露骨に嫌そうな顔されるとさすがへこむわよ」
「冗談ですよ。てことはアスナさんは…、いや、アスナ姉さんは私の実質家族ってことになるんですかね?」
「家族…、家族かぁ」
アスナ姉さんは噛み締めるようにその言葉を何度も紡ぐ。
「アスナ姉さん。今から外に出て星を見に行きませんか?」
「いきなりねぇ。でもどうして?」
「理由なんてありませんよ。なんとなくアスナ姉さんと星を見たいと思ったから誘ったんです!」
アスナ姉さんは目を見開いて驚いている。少しの沈黙のあとアスナ姉さんは優しい笑みを浮かべて答える。
「そうね。行きましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます