第6話 告白
「それにしても、こんな無茶苦茶な話をよく話す気になったよね」
ベッドの上で相変わらず体育座りのまま、膝に顔を埋めてサンドラは呟いた。
「サンドラだから、だよ。それ以外に理由が必要?」
イベールはサンドラの肩に手を乗せて、力強く肩を掴むと聞き返した。
「私は、サンドラのことを信じているし、とても大切な……そう……大切な人だから」
肩を強く揺すりながら、いつになく動揺した口調でなんとか言葉を重ねていくイベールの顔は真っ赤で、腰を浮かせて上半身をサンドラに寄せて抱きしめると、サンドラの肩にはイベールの涙が零れ落ちていった。
「ちょっと……待って……」
イベールの行動に戸惑いを隠せず、サンドラもつい言葉を濁した。狭いベッドルームは常に最適な気温と湿度になるよう空調が機能しているはずだが、胸の内で熱く込み上げる感情は、鼓動の高鳴りを引き起こし、うっすら暑さすら感じるほどだった。
「それって……つまり……」
「サンドラのことが好きだってことだよ!」
イベールが少しも男性に関心を抱く素振りを見せないことを、サンドラは今まではただ興味のあることに集中しているだけで、たまたまそういうことに関心が向く時期じゃないのだと勝手に思い込んでいた。マーカス並みに鈍感で相手のことを察したり気づいたりするこができていなかったのだと、サンドラは深く恥じ入り、頭を膝の内側にさらに深く潜らせた。
「それは……ここでは……禁止されている……アレということ……だよね……」
サンドラがぼそぼそと発した言葉にイベールは強い口調でこう断言した。
「人口を維持、発展するために男と女が家庭を築くべし。植民地憲章にそう書いてあるから、それだけでしょ。私たちはこれから、その誰のために守っているのかさえ分からなくなったクソったれの憲章をぶっ壊そうとしているのに、気にする必要ないじゃない」
打って変わって捲し立てるようにそう言い募るイベールは、サンドラをますます力強く抱きしめた。この小さな体のどこにそれほどの力が込められているのかと思えるほどに。
「サンドラが私の気持ちに応えてくれなくてもいい。それはサンドラが決めることだから。だけど何があっても私はサンドラの味方。この火星が全部敵になっても、たとえ地球が敵になったって、それだけは絶対に変わらないから」
イベールはそう宣言すると、サンドラの体をぱっと離し、ベッドルームの内鍵を開けると、共有スペースを挟んで反対側にある自分のベッドルームに駆け込むや否や、ガチャリと鍵をかけた。
一人残されたサンドラは、部屋の隅にポツンと置いてある両親から成人の祝いにと譲られた観葉植物を見つめていた。
火星植民地に隠されていた秘密だけでも大事で、それに加えてイベールの個人的な秘密の想いまで打ち明けられて、サンドラはすっかり混乱していた。
それでも確信できたことはあった。それは植民地憲章そのものが、いまやサンドラの疑問の行く着く先であり、同時にイベールがここで自身を偽らずに生きていくための障害そのものだという事実。それこそが、立ち向かうべき相手なのだということは、いまやサンドラの心に自明のものとして立ち現れていた。
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