第2話

誰かが、その場でスマホをいじっていた。

録音だったのか、文字起こしだったのかはわからない。けれど数日後、あの一言はSNSに現れた。会議室の空気感も、冗談の口ぶりもすべて削ぎ落とされ、ただ「差別的発言」として切り取られていた。

最初に見たのは、社内の匿名掲示板だった。

“うちの部にとんでもないやつがいる”

“これはアウトだろ”

“名前出すべきじゃない?”

そこからは早かった。

週末には、ニュース系のまとめサイトにまで取り上げられていた。ネットに詳しい後輩が、スマホを見せながら俺に言った。

「先輩、これ……あの人のことじゃないっすか?」

画面の中には、あの人の名前は出ていなかった。けれど、会議の日時や職種、話題の文脈があまりにも一致していた。

「火がついてる」

その言葉のとおり、コメント欄には“怒り”と“正義”が混ざり合ったような言葉が並んでいた。

――「無知は罪」「こんな奴が人を教育してるとか信じられない」「これは、処分されるべき」

俺は混乱していた。

あの人が、悪いことをした?

でも……悪意なんてなかった。ただ、口が滑っただけで……。

俺は、被害を受けた側の気持ちを想像しようとした。

けれど、それ以上に、俺の頭に浮かんできたのは、あの人の疲れたような笑顔と、いつもの背中だった。

それが、罪になるのか。

なら、俺は、あの人を――どう思えばいい?

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