第1話
あの人は、俺にとって「正しい人」だった。
面倒見がよくて、若手の意見にもちゃんと耳を傾けてくれる。理不尽に怒鳴るようなことは決してしないし、責任のある仕事も、きちんと背負ってくれる。
社会人になって三年目、俺が“働く意味”みたいなものに迷っていたとき、あの人の言葉が支えだった。
「楽しいことなんてそうそうない。でも、“人のために何かする”ってのは、案外、自分のためにもなるんだよ」
缶コーヒーを片手に、そんなことをぽつりと呟いた先輩を、俺は今でも覚えている。
あのとき、心の中で少しだけ、“父親”みたいだと思った。
だからこそ、あの発言を聞いたとき、俺は耳を疑った。
まさか、この人が、そんなことを言うなんて。
けれど、あの人は確かに言った。
会議の後の、何気ない雑談の中で。笑い声とともに。
——「でもまあ、○○みたいな人たちって、ちょっとズレてるよな。本人たちは気づいてないのかもな」
誰かを指していた。特定の、けれど曖昧な「カテゴリ」を。
名指しではなかった。冗談の延長だった。
……でも、あれは、確かに誰かを傷つける言葉だった。
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