口は災いの元

なんだかんだで月日は流れ俺は10歳になった。そろそろ追放の日が来る。そのキッカケと言うべき出来事、それは今まで面倒を見てくれた爺やが倒れる。

病気や暗殺とかじゃない。純粋に老衰だ。それは防ぎようも無い流れだ。だけど俺としては、仕方ないと分かっていてもその事実を受け入れるのは難しかった。


鉄雄「爺や、休もう。倒れちゃうよ。」


爺や「大丈夫です。以前にも申しましたが、坊ちゃまの限界はまだまだ先で御座います。」


鉄雄「いや、何で俺の限界を爺やが・・・。じゃなくて、爺やが倒れるよ。」


爺や「私がですか?フフフッ。私は大丈夫ですよ。」


本人は大丈夫と思っても案外そうじゃないのが世の中だ。それから1週間程経ち予定通り爺やは倒れた。


爺や「うっ!・・・・はぁ、坊ちゃま。私の事など、気にせず鍛錬を・・・。」


鉄雄「そうはいかないだろ?」


多少の運動はしている。だが、看病に時間を割いている現状では鍛錬は出来無い。しかし爺やを放って置く事も出来無い。


爺や「坊ちゃま。貴方は炎導家の嫡男。強く生きなくてはなりません。私如きを構う必要はありません。」


鉄雄「いやいや、俺を今まで育ててくれたのは爺やだろ?その爺やを放って置くって相当な鬼畜だよ?見損なって貰っちゃ困る。」


爺や「坊ちゃま。」


少し感動的な雰囲気が流れている気がする。


鉄雄「それに・・・。」


爺や「?」


鉄雄「爺やの特訓が無いと思うと。」


爺や「!」


鉄雄「今、少しホッとしている。」


爺や「はぁ?な、何ですって!あがっ!はぁぁぁ!」


鉄雄「あ、あれ?爺や?え?ま、待って!」


爺や「ふぐっ!ぐぅぅぅ!あっ!・・・はぁぁ・・・。」


鉄雄「はぁ?いや、待ってよ!そんな終わり方したら、まるで俺が止め刺したみたいじゃないか!起きろ!爺や!嘘だと言ってくれぇ!」


爺やはそのまま息を引き取った。恐らくあの瞬間が正に寿命だったんだろう。そう思う事にする。


闇精霊「いや、間違い無く鉄雄の一言が原因だよ。」


鉄雄「・・・・・。」


風精霊「私もそう思います。」


鉄雄「・・・・・。」


水精霊「うん。あたしも流石にあれは無いと思う。」


鉄雄「・・・・・。」


火精霊「鉄雄の失言癖はもう仕方あるまい。今は鉄雄に止めを刺された爺やを、我等で弔うとしよう。」


鉄雄「・・・・五月蝿いな!しょうがないだろ!もう過ぎた事をうだうだ言うなよ!」


闇精霊「うわ!開き直った!」


とにかく爺やが亡くなった後、親父が葬式を出してくれた。親父も爺やに対し色々と思う所はあったらしい。一応、礼儀と言うべきか尊重と言うべきか。俺も普通に葬式へ参加させてくれた。家臣一同、お袋や弟、当然親父もだけど、誰も俺と目を合わせない。嫌われてるな。葬式から約3日後、離れ屋に親父が現れる。まぁ、要件は分かっているけど。


親父「いたな。今日より3日後、この家を出てもらう。これ以上、貴様に関わっている暇は無いのでな。」


鉄雄「父上。」


親父「貴様の如き痴れ者に父と呼ばれるなど反吐が出る!」


鉄雄「いえ、これだけは言わせて頂きます。今までこの家に置いて頂き、ありがとう御座いました。」


親父「・・・・フンッ、多少の教養はあったのだな。」


鉄雄「これで今生の別れとさせて頂きます。」


親父「フンッ。今後、炎導の名を名乗る事を禁ずる。話は終わりだ。」


鉄雄「はっ!」


それから3日、俺は持てる私物を持って家を出た。当然、見送りも無い。これからは何をするにも自由だ。原作に関係無く生きる。ただ、平気だと思っていたが何故か涙が出て来る。


鉄雄「うっ、うぐっ!」


風精霊「鉄雄さん!」


水精霊「あちゃ〜、まぁ、そりゃそうだよね。親に追い出されれば泣きたくなるよ。」


火精霊「だから言ったのだ。家を吹き飛ばせと。」


闇精霊「僕ももう少し考えれば良かったね。ごめん。」


風精霊「あの時、私達全員で力を振えばこうはならなかったでしょうしね。」


皆んなが俺の事を思って色々言っているのは聞こえた。頭では分かっていても心が付いて来なかった。それから1時間程泣いて大分、収まった頃だ。


鉄雄「そろそろ行こう。」


火精霊「大丈夫か?」


鉄雄「うん。結局は自分で決めた事だから。」


闇精霊「で?これからどうするの?」


鉄雄「とにかく近くの町に行く。住む所と働き口探さないと、飯が食えない。」


水精霊「それもそうだね。」


俺は原作を外れて自由に生きる。決意を新たに町へと向かう。だけどこの時、俺は失念していた。ここまでの一連の流れは全て原作通りで、"鉄雄"がその町に行くのも予定通りだった。そして"鉄雄"・・・・いや、"俺"に取って最も重要な"運命の出逢い"が発生する。

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