出逢い(注意:ヒロインではありません。)
運命とは残酷だ。望んでいなくてもなる様になるらしい。
老婆「ううっ!な、何見てんだい!どっか行きな!小僧!」
この老婆、名前を桜庭 桃香(サクラバ トウカ)と言う。この人こそ"鉄雄"のもう1人の育ての親、そして霊力の扱い方を教える師匠でもある。物語ではこの人を助ける為に"鉄雄"が精霊の力を使う。それにより"鉄雄"自身も初めて精霊とコンタクトを取る。
鉄雄「あれ?俺は何で皆んなを認識出来てるんだ?」
火精霊「知らん。」
水精霊「分からない。」
風精霊「分かりません。」
闇精霊「物語の方はどうなってんの?」
鉄雄「その辺は曖昧なんだよな。」
桃香「さっきから何、1人でごちゃごちゃ言ってんだい!どっかに行きな!」
婆さんがそこまで言うんだ。ここは言葉に甘えて消えよう。俺は手を合わせ会釈をした後直ぐに移動する。だが、この後思っていたのと違う反応が返って来る。
桃香「ちょっと待ちな!糞餓鬼!」
鉄雄「え?俺?」
桃香「行き倒れた老人を放って、何処行く気だい!」
鉄雄「いや、どっか行けって言ったのはあんただろ?」
桃香「馬鹿だね。そんなのは"りっぷさーびす"って奴に決まってるだろ?」
鉄雄「そもそも俺、子供だし。助けを求めるなら大人の方が良いんじゃない?」
桃香「何言ってんだい!よく見てみな!これだけ騒いでるのに誰も来ないじゃないか!ほら!あそこの身なりの良い男!今、帽子で顔を隠した男だよ!ほら!逃げたじゃないか!あんな者だよ。この辺の人間なんか。」
鉄雄「じゃあ、俺が何もしなかったとしても変じゃないよな?」
桃香「はっ!今からそれじゃ碌な大人になれないよ!あんたはそんな奴になるんじゃないよ!さぁ!助けな!」
婆さんは俺に向けて手を出す。小説の婆さんはこんな感じじゃなかった様な。それに全然元気じゃないか。何処が行き倒れなんだ?
しょうがない。風の強化と水の回復でなんとかするか。
風精霊「私もですか?」
うん。お願い。
水精霊「それじゃあ、あたしに合わせて。」
風精霊「はい。」
俺の手の平に水球を作りそこに風を纏わせる。そしてそれを婆さんへと放った。
桃香「な!これは!あんたまさか!」
おっと、このままだと色々と大変な事になるかも。そろそろ行こう。
鉄雄「じゃ、さよなら。」
桃香「ちょっと待ちな。坊主。」
嫌な予感がする。しかし、ここで走って逃げても何か不味い気がする。
鉄雄「何でしょう?」
桃香「あんた名前は?」
鉄雄「え?え〜っと、ナツメ。棗だ。」
闇精霊「え?誰?」
いや、本名を名乗る訳にいかないだろ?
火精霊「しかし、棗か。呼び難いな。」
3文字だから文字数は変わらないだろ?
風精霊「所で何故"棗"なんですか?何か理由が?」
何と無く頭に浮かんだだけ。
水精霊「へぇ、何か意味があるのかな?」
とにかく俺は今日から棗と名乗ります。よろしく!
火精霊「あ、ああ。」
闇精霊「わ、分かった。」
何で引いてる?
桃香「フム。"桜庭 棗"か。悪く無いね。付いて来な。」
うん?今、不穏な事言わなかった?このまま原作通り学園まで行く流れにならないよな?言われるまま付いて行くと古い建物へ辿り着く。
棗「ここは?」
桃香「あたしゃの家さ。遠慮せず入りな。」
棗「いや、でも・・・。」
"行かない"と断る間も無く質問が飛んで来る。
桃香「あんた、親は?」
棗「え、えっと。い、いない。」
桃香「じゃあ、住んでる所は?」
棗「うっ。な、無い。」
桃香「成程、成程。」
ヤバい気がする。逃げよう。
水精霊「え?でも、住む所とか無いじゃん。」
うっ!
火精霊「話の通りならばこの女は鉄雄を、いや、棗を育ててくれるのだろう?ここならば衣食住が保証される事になる筈だ。」
うぐぐっ!反論出来無い。どうしようか考えているこのタイミングで、ぐぅ〜と音が鳴る。俺の腹が鳴ったのだ。
棗「うお!」
桃香「フッ。先ずは飯にしよう。今日はあたしゃが腕に寄りを掛けて作るよ。」
婆さんがキッチンへ消える。すると代わりにひょっこり顔を出した奴がいる。婆さんに付いてる精霊だ。
別火精霊「済みません。強引で。って!ああ!兄さん!」
火精霊「おお!お前か!」
棗「え?何?どうしたの?」
火精霊「此奴は我の従兄弟だ。」
え?そうなの?世間は狭いね。火精霊達が会話をしているの眺めて待っていると婆さんが食い物を持って来る。
桃香「出来たよ。野菜を味付けして焼いた程度の物だけどね。」
おお、来たな。・・・・何かテカって無いか?いや、油引いて焼くんだからあんな物かな?
桃香「味の保証は出来無いけどね。」
あ!良く聞く奴だ。知識で知っている。こういうのはフラグって奴で、言った事と逆の結果になるんだ。即ち"味の保証はしない"、上手いか分からないって言いながら実は上手いってパターンだ。俺は気にせず野菜を箸で摘み口に入れる。
棗「うっ!ふぐぁ!げぇぇ〜!ババァ!毒盛りやがったなぁ!」
桃香「馬鹿だね。そんな事してあたしゃに何の得があるんだい?あたしゃ、単純に塩と砂糖を間違えただけさ。」
棗「ふざけんなよ!何で味見しなかった!」
桃香「したよ。味見くらい。」
え?もしかして超絶な味音痴とかじゃないよな?凄い不安だ。
桃香「1口食って思ったね。あたしゃ史上、1、2を争う程の最低な出来だった。流石に死ぬかと思ったよ。まぁ、確かに焼きながら無駄にテカテカしてるなぁとは思ったけど。」
棗「不味かったなら出すなよ!」
桃香「あんたね!この野菜達を見てみな!味以外は普通の瑞々しい野菜達だよ?食わずに捨てるなんて!農家さん達に失礼だと思わないのかい!」
棗「それを言うなら先に自分の腕の無さを失礼だと思えよ!」
お互いに文句を言い合うと、またもぐぅ〜っと音が鳴る。ただし、今回は俺のじゃない。
棗「・・・・・。」
桃香「くっ!」
婆さんも腹が減ってる様だ。その婆さんは野菜炒め改め、野菜の甘露煮を箸で摘む。しばらく眺めてから口へ放り込んだ。
桃香「うっ!不味っ!」
棗「今、不味いって言ったな。」
桃香「何の事だい?知らないね。」
棗「自分で不味いと分かってる物出すなって!」
桃香「ツベコベ五月蝿い子だね!いい加減、文句を言うのは止めな!」
俺達はまた文句を言い合うが途端にぐぅ〜っと音が鳴る。しかも2つ。
棗「むぅ。」
桃香「くそっ!・・・・とにかく今日はもうこれしか無いからね。我慢して食いな。」
互いに箸で摘みそれぞれで口に運ぶ。
棗「うぶ!」
桃香「ぶえ!」
俺達は何とか野菜の甘露煮を食い切った。
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